花の本棚

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遠田潤子 人でなしの櫻

遠田潤子 「人でなしの櫻」
遠田さんの新しめの作品が面白そうだったので読んでみました。
 


主人公の日本画家が絶縁していた父の家に行くと、父は死亡しており家の中には一人の女性がいた。その女性は8歳の時から拉致、監禁されており、10年以上も彼に洗脳されていたため父だけなく主人公たちも「人でなし」の一族と言われるようになった。主人公は嫌悪していた父が所有物に仕立て上げた彼女を一目見た時から絵のモデルにしたいと惹かれており、自分にも人でなしの血が流れていると思い知らされる、というお話。
 
歪んだ憎悪と愛情をテーマにした作品です。
主人公が父を歪んだ憎む心情と、監禁されていた女性に抱く歪な愛情を描いています。そのため物語全体としてかなりダークに出来ています。
本作の見所は歪んだ感情たちによる心理描写とそれをもとに描かれていく日本画の繊細な描写の部分となります。才を持つ父親を超越したいという憎しみなのか憧れなのか曖昧な情を抱えながら絵と向き合い描写は熱量がすごくて驚きました。対して日本画についての描写は美術関連に詳しくない私が読んでも描写の綺麗さに引き込まれるほどでした。300ページ弱の作品でしたが読んでみるとそれ以上の長さに感じるほどでした。
 
作中にてパートナーに何かを奪われるばかりで空っぽになってしまった、というシーンがありました。その場面では二人とも人から奪うタイプであったなら互いに奪い合うことで均衡が取れる、と解説されていました。
奪うことで支配欲を満たすのだろうと理解はしたのですが、私は人の何かを奪おうとするタイプではないので共感は出来ませんでした。分かりやすいケースとしては二人で待ち合わせしている時をイメージすると良さそうでした。相手を待たせると悪いと考える人は時間通りに来ますし、相手の時間を奪っても気にしない人であれば遅刻を頻繁にしてくるということです。お互いたまに遅刻するのであれば作中で言われている時間を奪い合っている構図になるのでOKですが、0の人と毎回の人だと0の方が常に奪われるので行動を共にしない方がいいでしょう。私も毎回遅刻してくる人とは交流をいつの間にか絶っていたので、奪うタイプの人とは自然と離れる動きをしていたのだと気づいてしまいました。
 
少々重い内容ですが描写が緻密で面白いので気になる方は読んでみてください。