花の本棚

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遠田潤子 ドライブインまほろば

遠田潤子 「ドライブインまほろば」
遠田さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 

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主人公の少年は母の再婚相手を殺害してしまう。血のつながった子である自分よりも夫の味方となった母に絶望し、義父の双子の兄に殺されないために妹を連れて逃げることとなる。一方で山沿いにある「ドライブインまほろば」の女性店主は娘を事故で失ったことで母親と折り合いがつかずにいた。あるとき幼い妹を連れた少年が店に現れ夏休みの間だけ置いて欲しいと頼まれる。二人を受け入れたその夜に少年は義父を殺して逃げてきたと告白し生きる資格がないと吐露する、というお話。
 
生きる資格をテーマにした作品となっています。
両親から見放された上に殺人までしてしまった少年が女性店主と過ごすことで何のために生きるのかを悩み、前に進もうとする姿は感動的でした。少年に対して子を失った母親、望んでいないのに子が産まれてしまった男性といった立場の違う人々から見てどう映るのかも繊細に描かれていて読んでいて惹かれるものがありました。
また本作には家族を断ち切ることについて多く描写があります。血のつながりがあってもそれが生きる上で障害になるなら覚悟を持って断ち切ることも必要、ということを伝えようとしていると読み取れました。今は家族という集合よりも個の幸せを追求する時代になっていると私は思っているので、こういった描写は今の時代には刺さるところはあるでしょう。
 
作中にて少年がどれだけ理不尽な目にあっても正しいことを通そうとする姿勢を見て母親と義父が腹を立てるシーンがありました。本作の心理描写によると自分は正しいことが何か分かっていると毅然としている態度が癪なのだそうです。
私にとってこれは今まで何度も見てきたシーンでした。私の中ではこの類の人を「こそこそルールを破る人」と分類していたのですが、今まで生きてきて私に攻撃をしてきた人物の類がこれだからです。ということもあって戦わなければならない宿敵の心理を知れて有意義でした。
ただ、私は既に大人なので戦えますが、子供にとっては辛いでしょう。いい子にしていても怒られ、かといって悪いことはしたくないという状態になり想像するだけで可哀そうです。一緒にいても不幸になるだけの家族を断ち切る手段はもっと多くあっても良いと私も考えています。
 
これはお子さんがいる方々に是非読んでみていただきたいです。