花の本棚

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遠田潤子 オブリヴィオン

遠田潤子 「オブリヴィオン」
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 

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不慮の事故で妻を殺害した男性が出所してきた。かつてともに人生を建て直した義兄や娘から糾弾され、人と関わらずに生きるようになる。あるときヤクザである実兄の子分がやってきて自分たちに協力するよう周囲に嫌がらせをしはじめる。主人公は奇跡的な勘を持っており幼少期に父のために競艇で順位をすべて当てることに成功した結果、父はギャンブル依存症が悪化しその後死亡したため使うことを拒んでいた。
様々なものを失ってしまった主人公は再度立ち直ることが出来るのか、というお話。
 
SF要素が少し入ったミステリーという印象の作品でした。
「こぼれた牛乳は取り返しがつかない。でも新しい牛乳を注ぐことは出来る」という義兄の言葉を中心に人の再起をテーマにしています。主人公も含め、メインの登場人物たちがどのように悲惨だった過去から再起していくかを描いています。再起のために逃げたくなる過去と向き合ったり、前に進むためにもがく姿などは痛烈でありながらも感動的でした。
またミステリーとしてもとても上手く出来ています。作中の登場人物たちは隠し事を秘めており、終盤でそれらが一気に明らかになることで今まで見えていたものが一変してかなり驚かされました。少々後半に詰めすぎている気もしますが内容自体は納得感の高いものになっているため私としては問題ないと思っています。
 
遠田さんの作品は暗くなりがちなテーマであっても暗い終わり方にならない点が気に入っています。気になる方はぜひ読んでみてください