花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

凪良ゆう 流浪の月

凪良ゆう 「流浪の月」
以前凪良さんの作品を読んで楽しめたので別の作品を読んでみました。
おそらく今年最後の投稿になります。

 

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主人公は浮世離れした両親の元で産まれた。独特なルールのある家でありつつも幸せであったが、両親ともにいなくなってしまい親戚の家に引き取られることになる。あるとき家に帰るのが嫌になってロリコンと噂されている男性の家に付いていきそのまま居つくこととなる。噂とは異なり幸せな日々を送るが外出したときに通報されて離れ離れになってしまう。
月日が経ち彼女は大人になっても彼を忘れられなかったが、立ち寄った喫茶店で彼が働いているのを目撃する、というお話。
 
ネグレクトな家庭をテーマにした作品です。
恋愛系の小説のようにも見えたのですが、かなり歪んだ価値観から生まれているため本題は社会問題の方であろうと読み取れました。作中では何かしらの歪んだものを持った人物が何人も出てきており、彼らがどういった考えで生きているのかはとてもリアルに描かれていました。
日頃見ない価値観を描かれると理解するのが難解になるのですが、凪良さんの描き方が上手だからか本作ではちゃんと読めば理解が出来ました。とはいえ理解は出来ても共感まではなかなか出来ないものが多いという印象でした。それだけネグレクトによる価値観への影響は大きいということでしょう。
他にもネグレクトな家庭は連鎖するのはなぜか、歪んでしまった人たちは日常生活をどう生きているのかなどについてもかなり分かりやすく描写されているため読んでいてためになりました。
 
作中にて主人公が変質者と噂される男性に付いて行ってしまう場面がありました。その心中が描かれていたのですが、その描写が現実でもそうだとしたら世の中の変質者に巻き込まれる事件は利害が一致しているので防ぎようがないと思いました。
描写によると少女の方は家で死ぬほど嫌な思いをしているとのこと。変質者に付いて行けば最悪殺されるわけですが家に帰れば確実に死ぬほど嫌な思いをするのと比べると、無事に済む可能性がちょっとでもある分付いて行った方が利があるということです。ネットで知り合った顔も知らない人に会いに行って巻き込まれる事件は時々ニュースにもなり、双方とも愚かだなと思っていましたがこうして考えるとそれなりに合理的な行動をしていたのですね。もちろん犯罪は許されませんが当事者どちらにも利があるので、対策しようと思ったら家庭側からアプローチするしかなくて困難だろうと思います。
 
本作では世間で言われている「ネグレクトな家庭の子供が親になるとネグレクトな家庭になりやすい」について描写している場面がありました。それによるとネグレクトな家庭の子供は頼れる家族がいないために恋人との関係を解消するのに実生活の問題が発生しやすい傾向にあることから、束縛や暴力の傾向がある異性から逃げられないことが多いそうです。例えば保証人が必要な時に家族をあてにできず恋人を保証人にするそうです。そうなると別れるだけで社会人生活自体に支障が出てくるので死活問題になることもあるようです。
また恋人側もそういった逃げ先のない異性を好んで狙う人はネグレクトな家庭で育った人が多いため、そういった二人が家庭を築いてしまった場合ネグレクトな家庭になる確率が高いということです。決めつけなどではなく筋道がちゃんと見えるように描写されていたのでこちらも納得できました。私もこんな感じなのではという仮説ぐらいしか知らなかったため、知見が広がりました。
 
これはお子さんがいらっしゃる親御さんに読んでいただきたいです。私とは違った視点や感想を持つかもしれませんが、きっと何か思うところがあると思います。
今年も私の書評に付き合ってくださりありがとうございました。来年もよろしくお願いします。