花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

東野圭吾 永遠の記憶

東野圭吾 「永遠の記憶」
先日亡くなられた東野圭吾さんの新刊を買ってみました。

 



 
シリーズに登場していた女性刑事がスーパーで刺される事件が発生した。犯人の男性は犯行後にスーパーから飛び降りたが生存しており、黙秘を貫いている。刑事はこれまでいくつも謎を解いてきた教授に相談すると、今回の事件はスーパーのレジにいた女性に襲撃を見せるためであったと判明し、女性刑事が彼女の母親をかつて逮捕していたことも判明する。
彼女を聴取すると、母親を逮捕したことへの謝罪を要求し、要求を拒めば復讐として女性刑事の息子に危害を加えると宣告してくる。彼女の息子を救うために教授と共にその方法を探る、というお話。
 
ガリレオシリーズの最新刊になります。
本作の見所はシリーズを読んでいる人にとっては集大成のような展開が楽しめる点でしょう。本作の事件には復讐の方法から始まり、数々の謎に広がっていきます。それらの謎が実は過去のシリーズで扱った事件とも関係があり、主人公たちも気がかりだった過去の事件で残っていた謎とつながるという展開はシリーズを読んできた読者にとっては喜ばしい内容で楽しめるでしょう。ミステリーとしてみても伏線や過去の事件との繋げ方は非常に上手くて面白いものとなっています。
ただこういった内容なので本作はシリーズを通しで読んでからにした方が良いです。最低限の説明はありますが本書だけ読むと分からない人物や出来事がたくさん出てきますので、シリーズ全部とは言いませんがいくつか読んでおいた方が良いでしょう。
 
作中にて、取り調べでは他人の人生を諭すようなことを言っていたのに日常生活ではそのことすら忘れて平和に暮らしているのが許せない、と復讐を企てた女性が語っているシーンがありました。要するに、仕事と日常生活の態度がダブスタになっているのが気に入らない、という話ですね。私としては、仕事と日常生活の態度がダブスタなのは問題だとは思わないが刑事は例外、と思い至りました。
まず仕事と日常生活の態度がダブスタなのは一般的な会社員であればむしろ自然なことです。勤務態度も含めて雇用契約がされているのですから。なので、日常生活で仕事中と同じ態度が取れないのは契約外だからと見れば何も問題ありません。ただし行き過ぎた正論を吐くなど他人に苦痛を与えるようなハラスメントにつながる行為については別です。雇用契約で「他人に苦痛を与える態度を取ること」が結ばれていることはまず無いので、これは雇用契約ではなく当人の人間性から発生していることになり、それが日常生活とタブスタになっていたら「相手によって態度を変えている」と批判されるのは至極当然です。
刑事が例外なのは一般人が持たない逮捕などの特権を持っているからです。その特権を行使することで他人の人生を変えてしまうほどの影響力を持っているのですから、それに見合う人間であるか常に監視されるのは当然のことでしょう。日常生活をしているときは刑事としての特権が消える、という運転免許証の所持と同じような扱いなら常に監視はされないでしょうね。刑事以外にも政治家なども同様だろうと思っています。
 
東野さん作品の面白さが詰まった内容になっているので、気になる方はチェックしてみてください。

 

安宅和人 イシューからはじめよ

安宅和人 「イシューからはじめよ」
私の職場での課題をAIに話し、改善するためのおススメの書籍を提示してもらったのがこれだったので買ってみました。


 
知的生産性を高めるために問題を解くために行動するばかりでなく、見極めることが大事だ、と主張した書籍になります。
大項目とひとことまとめは以下になります。
 
①バリューのある仕事とは
 イシュー度と解の質の二つで決まる。この二つの両方が高い仕事をバリューのある仕事という。
 イシュー度:自分の置かれた立場において、その問題を解く必要性の高さ
 解の質:どこまで明確な解が出せるか
②解く前にイシュー度の高い問題を見極める
 問題が一つだけということは無い。限られた時間でバリューのある仕事をするために解くべき問題(イシュー度の高い問題)を見極める
 とにかく解こうとするとイシュー度の低い問題に時間を使ってしまう
③解の質を高めるには
 以下の二つが重要になる
 ・ストーリーライン
  自分や相手がどういう分析結果なら納得するか、をゴールにしてそこにたどり着く仮説やストーリーを考える
 ・絵コンテ
  どんな分析結果が欲しいか(データが取れそうか、ではない)を仮説(イシューを分解したサブイシュー)を起点にして分析イメージを作る。
④伝える時はシンプルに
 意味のある課題を扱っている→最終的なメッセージ→メッセージに納得して行動してもらう
 だけが伝わるようにする。分析をどれだけがんばったかの苦労を伝える内容にしないこと。
 
といった内容です。感想を一言で言うと、良い内容ではあるけど現実的には役に立たない考え方だという印象でした。2024年に改訂されてはいますが、出版されたのが2010年ということもあり時代にあってない部分が多くみられました。もっと具体的に言うと、私のいる能力帯では何も行動しない人が言い訳に使っている考え方(特に②とか)なので、有用な場面が極めて少ないです。私が何かの拍子にもっと上のランクの人々と仕事するようになったら、この考え方を再評価することになるかもしれませんね。
個人的な感想はここまでとし、次は実際の内容です。個人的にためになったのは④のところ。私は「まず行動し、行動して分かった情報をもとに考える」タイプということもあって、上司や同僚から「それをやるのは無駄じゃないか」と指摘されることがしばしばあります。説明したところで協力してもらえるわけでもないので時間の無駄だと考えて無視しているのが現状ですが、こういった状況を減らすのには④にある「意味のある課題を扱っている」ことを説明するのが役立ちそうだ、と考えています。
 
個人的には現代の仕事の仕方と合わないところが多いのでおススメはしません。自分が抱えている課題に刺さりそうだと思う方はチェックしてみてください。

 

宇佐美まこと 月白

宇佐美まこと 「月白」
宇佐美さんの新しめの作品が面白そうだったので買ってみました。

 



 
主人公のライターは戦後に男性のみを狙って殺害していた女性殺人鬼について調べて記事にして欲しいと依頼される。戦後というまだ女性がそこまで強くなかった時代に5人も男性を殺害して死刑になったという珍しさがあり、依頼を受けることにした。取材をしてみるとどうやら彼女は自分の子でない少年を連れていたようであり、しかもその少年は現在も生きていたため話を聞こうとするが取り付く島もなかった。
そこで以前同じ事件を調べていた記者の取材情報をもらい受けてみると、彼女は残虐な殺人鬼などではなくもっと深い魅力のある人間性を持っていたように感じ始める、というお話。
 
憎しみをテーマにした作品となります。主人公の視点と戦後当時殺人鬼とともに行動した少年の視点の二つを行き来する形で進行していく内容となっています
本作の見所は憎しみに対する登場キャラたちの考え方、向き合い方の描写が面白い点にあります。戦後パートでは敗戦後という今日生き延びるのにも必死な日々を送る過酷さ、強者に虐げられる理不尽さ、そんな生活を続ける絶望感の中で生き抜くには強者を退けるほどの強い憎しみを持って生きる必要があったという描写は現代にはない強烈なものでした。
そして憎しみを持った行動が許されず泣き寝入りを選ぶしかない現代人から見ると、憎しみを行動にできる人には何とも言えない魅力があるという描写も非常にリアルで読んでいて面白かったです。理不尽に対してスカッとするような行動をしたエピソードを紹介するのが一時期流行ったのを見るに、この傾向はきっとあるのだと思います。
 
作中にあった憎しみに関する解説によると、現代人は憎しみが生じても内側に留め、その憎しみが爆発したシーンを夢に見る程度なのが普通だそうです。だからこそ憎しみを行動にできる人に心揺さぶられるとのこと。
この書き方で考えると、私は憎しみを行動にできる側の人間になりますね。私を自殺に追い込んで死なせようとしたOJTを殺そうとしたり、理不尽な侮辱をしてきた他部署のマネージャーをさらに上の統括長に報告して糾弾したり、と憎しみや殺意を隠さずに行動することは度々あります。そういった行動をすることにまったく躊躇していないのですが、一般的にはこれらの行動をするのには大きな迷いが生じるのが普通らしいです。
この差はどこから来ているのだろうか?と考えながら読んでいたところ、作中に「泣き寝入りが出来ない性分というのは何とも悲しい」という表現がありました。実際私も上に書いたエピソードのときは心の中が憎しみと殺意でいっぱいになって他のことが一切目に入らない状態になっていました。普通であれば諦めたりして泣き寝入りをして正常な状態に戻っていくのでしょうけど、私の場合は例え犯罪だとしても行動しないと正常な状態に戻れないのでしょう。
こうして書き出してみると、こんな行動が本当に人々の心を揺さぶったり惹きつけたりするのだろうか?とやっている側としては疑問に思ってしまいます。こちらとしてはどの行動も自分のためにやっているので、その副作用としてそれを見た周囲の方々に良い影響を与えられるなら結構なことですね。
 
心理描写系の作品として面白い内容でしたので、気になる方はチェックしてみてください。