花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

阿津川辰海 透明人間は密室に潜む

阿津川辰海 「透明人間は密室に潜む 」
阿津川さんの短編集があったので読んでみました。

 

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4つの短編ミステリーを収録した作品です。
どの章も短編でありながらもミステリーとして上手く作られている印象でした。阿津川さんというと「紅蓮館の殺人」や「蒼海館の殺人」といった長編ミステリーの評価が高いので短編だとどうなのか?と思い手に取りましたがとても楽しめました。
タイトルになっているのは第一章で透明人間が人間社会に共存している世界のお話になっています。読んでみると透明人間の設定がちゃんと作りこまれています。他の章もそうでしたが短編では雑になりがちな舞台設定をしっかりしていてすごいと思いました
 
短編集なので短い時間でサクッと読みたいときにおススメです。

垣谷美雨 結婚相手は抽選で

垣谷美雨 「結婚相手は抽選で」
以前垣谷さんの作品を読んで楽しめたので別の作品を読んでみました。

 

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未婚率と少子化対策として政府は「抽選見合い結婚法」を制定した。対象年齢の独身の中から抽選で組み合わせを決め、不満な場合は拒否もできるが3回拒否するとペナルティが課せられるという仕組みであった。またとないチャンスと喜ぶ人、制度が始まる前に結婚を決めようとしたが失敗してしまった人、など参加者の境遇は様々であった。制度が始まり出会うことで各々が自身の結婚観を考え直していく、というお話。
 
もしもこういった制度が出来たら、というSF風の作品です。法律が無理やり制定されて、国民たちがそれぞれ考えるという流れは前に読んだ「七十歳死亡法案、可決」と同じでした。
未婚率や少子化については序盤だけしか登場せず、現代の結婚観について問いかけるのが本題のようでした。親の強い干渉、異性に対しての偏見、容姿や人間性の劣等感、などに悩む人たちの描写はなかなかにリアルでした。概要を読んだ時にイメージした内容とはだいぶ違うものでしたが、これはこれで楽しめました。
また話の雰囲気とラストシーンを見た限り、著者もこの施策が晩婚化と少子化対策に対して良いものだとは思っていなさそうだと読み取れました。私としても制定されるまでの流れは少々雑な印象を受けたのでそこまで深く受け取る必要はないのかなと思っていました。
 
もしこの「抽選見合い結婚法」が出来たら実際どうなのか?を考えてみました。とりあえずは作中の設定そのままとして考えたところ、結論から言うとメリットよりもデメリットの方が多い。
一番大きいデメリットは、参加者の大多数は嫌な目に会うだけという点です。参加者は対象年齢になるまでの人生のパートナーが得ていない人です。身もふたもない言い方をすると異性視点の魅力が低い人間しか集まりません。よって制度開始の序盤で希少な魅力ある人はいなくなり、残るは断られ続ける人とペナルティに怯えて逃げ回る人だけの制度になります。この構図は作中でも描かれていたので著者も気づいていらっしゃるようでしたね。
数少ないメリットとして「異性との出会いが少ない」という人に出会う機会を与えられるという点でしょう。ただ、晩婚や未婚などの主原因は出会いの少なさではないと思うのでこのメリットも目的に対して有益ではないでしょう。
 
現代の未婚率の高さの原因は何か?についても考えてみました。一番の原因は経済力だと思いますが、同じくらい大きいのは娯楽の充実だと私は考えています。
かつては娯楽も多くなかったので結婚して子育てするくらいしか社会人のプライベートの楽しみや生き甲斐になる事はありませんでした。現代ではネット上の娯楽などもあり独身であっても生活の中で娯楽を満喫できるようになっています。またメディアで流れてくる子育ての大変さや会社の先輩から聞かされる家庭の苦労話などによって、今持っている娯楽と将来の結婚を見比べて娯楽の方を選ぶ人が多くなったのでは、と私は考えています。
私としても結婚は自分の考える幸せな人生において必須ではないと考えています。結婚が良いのか悪いのかは人によって状況が違いすぎるのでハッキリと決めることは出来ませんが、自分の幸せに必要かどうかが判断の基準として良いのではないでしょうか。
 
「七十歳死亡法案、可決」に比べると雰囲気がかなり軽くなっているのでこちらから読んでみるのも良いと思います。

阿津川辰海 蒼海館の殺人

阿津川辰海 「蒼海館の殺人」
以前読んだ「紅蓮館の殺人」の続編が出ていたので読んでみました。
 

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前作の事件の後、探偵役だった学生が傷心して学校に来なくなった。助手役とその友人が様子を見に行くと館では彼の祖父の法事を行うために彼の親戚一同が集まっていた。その中に紛れていた記者が祖父の死は殺人であると話始めたことで場の雰囲気は重苦しいものとなる。その最中、豪雨が降り始めたことで屋敷から出られなくなると同時に殺人事件が発生する。洪水から非難しつつ一連の事件の謎を解くというお話。
 
推理をメインに置いたミステリー小説です。
全600ページほどの内容なので謎の数も多くて自分で推理するのが好きな方にはうれしい作品だと思います。推理する材料も物証や発言だけでなく人物の性格や生い立ちなど色々な面から考える必要があるため、解き応えは十分にあるかと思います。
また自分を見失ってしまった探偵役が立ち直るために悩んだり、助手役や友人が寄り添ってくれたり、といったシーンは暖かなものになっています。こういった推理以外にも良い部分があるので謎解きせずに読んでも楽しめる内容となっています。ただ、何があって探偵役が傷心しているかは前作を読まないと分からないので、こちらの部分を楽しみたい方は前作を読んでからにした方が良いです。
 
 
作中にて今まで見下していた相手に打ち負かされる、というシーンがいくつか出てきます。おそらくですが探偵役が立ち直る過程として本作のテーマの一つになっていると思われます。
会社などにて下に見ていた人に打ち負かされたことが私は一度もありません。なぜなら、配属早々に自殺を要求される私よりも下の人間など絶対にいないからです。仮に存在したとしても、自殺強要より酷いとなればとうに誰かに殺されていると思うので会うことはないでしょう。
ですが、私が期待したアクションをしなかったせいで相手の方が職場で怒り始めるシーンは何度も見たことがあります。私にない感情なのでよく分かりませんでしたが、私に反発される=馬鹿にされているという図式なっていると考えるのが一番自然でした。このような衝突が先輩だけでなく後輩相手でも起きるので、私を認知している人からは総じて下に見られていると思って日頃行動しています。悪気はなくても相手に負の感情を起こさないようにするのが社会人のマナーであると心得ています。
 
謎解き要素が多いので推理が好きな人はぜひ読んでみてください。

倉知淳 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件

倉知淳 「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」
タイトルが気になって買ってしまいました。倉知さんというと「星降り山荘の殺人」を読んだ方が多いのではないでしょうか。
 

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内容はコメディ調のミステリーを集めた短編集となっています。タイトルの事件はそのうちの一つで、「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ」と言われた男性が撲殺死体で発見されるが部屋に凶器はなく砕けた豆腐あるだけであった、というお話です。
短編集ですので深い内容ではありませんがミステリーとしては上手く出来ています。とはいえタイトルの章もですがコメディな章がほとんどなので真面目に推理して解くよりは軽い気持ちでサクッと読んだ方が良いです。
 
本作の章に一つ面白いものがありました。会社内の行動をAIが監視していて人事評価を自動化するというお話。面白いのはそのAIには遅刻やミスをしてもランダムで見逃してもらえる気まぐれ機能と隠し数値で贔屓機能がついているという物でした。贔屓されている主人公に嫌われると飛ばされてしまうのでみんなから腫物として扱われるというお話でこれが読んでいて面白かった。
私もAIについては勉強したことありますが人事評価に使うには向いてないだろうと思います。何をしたら評価するようにするかは管理する人間がAIに教えないといけないので、上司が評価するのとそれほど差は出ません。むしろAIに評価されない仕事を誰もやらなくなったり、評価される仕事を独り占めするといったことが起きて職場の空気は悪化するでしょう。専門家ではありませんので私的意見になりますが、コミュニケーションや情を伴って行う事柄にAIは使えないと思っています。上記の人事制度で言うのであればパワハラやセクハラの発見、処罰であればAIにやらせると無慈悲に遂行してくれるので良さそう。発言内容と言われた側の脈拍や表情などを分析して嫌がっているか検知すれば悪くない精度が出るような気がします。
 
手軽にミステリーを楽しみたい時にはおススメです。

山白朝子 私の頭が正常であったなら

山白朝子 「私の頭が正常であったなら」
タイトルが気になったので買ってみました。

 

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ホラーテイストの短編集です。ホラーと言っても霊的な題材が多いだけですのでジャンルはエンターテインメント系になると思います。ミステリー調で書いている章もあればいいお話の雰囲気で終わる章もあるので結構ごちゃまぜです。
感想としては印象が薄くてパッとしませんでした。上記のようにジャンルが章ごとにばらけているので何を書こうとした作品なのかよく分かりませんでした。
ただ、文章は非常に読みやすくて話の構成もかなり上手いです。中長編の作品であればもしかしたらいい作品があるかも、と期待できそうな予感はしています。
 
本作は評価微妙ですが、もしかしたらいい作家さんを見つけたかもしれません。

両角長彦 人間性剥奪

両角長彦 「人間性剥奪」
他のブログの方が紹介していたのを見て読んでみました。

 

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ある中学校にて給食に毒物が混入されて二人が死亡する事件が起きた。給食の時の状況を調べると被害者生徒の一人を故意に孤立させるいじめが起きていることが発覚した。いじめにあっていた生徒を調査するといじめを知っていながら隠していた教師、歪んだ愛情で近づこうとする父親、毒物混入を予見していたかのように熱弁する塾講師など周囲には奇妙な状況が多く見られた。調査が進む中で「人間性」と名乗る犯人からさらに被害を出したくなければいじめの首謀者にTVで謝罪させろという手紙が届く、というお話。
 
社会問題とミステリーを合わせたような作品です。
ミステリーとしてみた時の感想は場所によって力の入れ具体に差があるという印象でした。事件の真相やその伏線の出し方は非常に上手くて、推理しながらでなくても楽しめる面白さです。反面、犯人の正体についての伏線は出し方に他と比べると雑さが目立っていてすぐに分かってしまうので、著者はこっちを重要だと思っていなさそうなのが読んで取れました。全部が凝りすぎていると読むのが大変になるので私としては良い配慮になっていると思います。
 
本作で重要な要素として「思い込み」が出てきます。思い込みによる食い違いを持ったまま行動して思わぬ事態になってしまう、というのは現実でも度々見られます。思い込みは良くないと言われてしまうくらいに悪いイメージが強いですが、思い込みは捨てなくて良い考えであり、特に人間の性質に対しての思い込みは重要だと思っています。
思い込みとはその人の人生経験で積み重ねて作る統計的な印象です。なので「○○の人は××である」についてのサンプル数が十分に揃っていたら十中八九外れません。私の場合、こういう人は私に対して攻撃してくると分類した人間性を学生時代に作成しました。社会人になり、学生とは違うと聞いていたのでそれらを一旦しまっておいたのですが、結果としては攻撃してくる人のパターンは何も変わっていませんでした。
物であれば技術の進歩によって悪かった部分が知らないうちに改善していることはありますが、人間の性質でそれが起きることは基本ありません。もし起きたら何かしらの情報媒体で話題になるはずなので、そこに出てきた時点で思い込みを改めれば問題ありません。
 
思い込みの重要性についてもう一つ書いておきたいことがありまして、それは物的証拠がない物事については思い込みを使うしかないという点です。
例として「Aさんが私を嫌っている」の真偽を判定したいときを挙げてみます。直接聞いたときの返答、私に対しての接し方、など行動や言動による状況証拠は集められますが、最後は「こういう行動/言動をする人は私を嫌っている」といった思い込みに落とし込むしかありません。どうするのが正しいのか?は誰にも分からなくて、自分が納得するかどうかだけだと思っています。
私がいつもやっていることは、まず思い込みで決めつけて行動してしまいます。そして行動を露骨に相手に見せてリアクションを見ます。相手が「誤解されていて訂正したい」など何かしら思うところがあればリアクションが出てくるのでそれを見て修正すれば良し、無反応であれば決めつけは正しいまたは相手にとって重要でないことなので決めつけた行動のままで問題ありません。こんなことをよくするので周囲から思い込みが激しいと度々言われるのですが、上記は結構役に立つので直す気にならないのですよね。
 
知らない作家さんだったのですがとても楽しめました。他の作品も読んでみたいと思います。

原尞 それまでの明日

原尞 「それまでの明日」
今回は貰い物。初めて読む作家さんでした。

 

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主人公の私立探偵のもとに現れた金融会社の男性が料亭の女将を調査してほしいと依頼しにくる。しかし対象の女将はすでに亡くなっており顔がそっくりの妹が女将をしていた。依頼者が調査してほしいのか確認しようとするも依頼人が行方不明になってしまう、というお話。
 
シリーズ物の最新刊で実に14年ぶりだそうです。
読んでみた感想を端的に言うとすべてが古臭い。14年前の書き方でそのまま続編を作ったようです。一つの事件から様々な出来事に枝分かれしていく構図なのですが、書き方があまりに淡々としすぎて惹き付けられる描写がないためちゃんと追うために読み込むのがかなり苦しい。せっかくのシリーズ復活ですがこれでは元からのシリーズファン以外は付いていけないだろうと私は思います。
本シリーズの売りはハードボイルドな雰囲気だと読み取れました。私立探偵が主人公ですが中身は限りなく刑事物に近い。なのでそういった作品が好きであれば楽しめそうです。
 
つまらないとは思いませんので、刑事物が好きな方であれば楽しめると思います。