花の本棚

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遠田潤子 銀花の蔵

遠田潤子 「銀花の蔵」
遠田さんの一番新しい作品を読んでみました。

 

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あるとき主人公の父親が実家の醤油蔵を継ぐことになった。その蔵には座敷童が住んでおり当主に相応しい人物にのみ見えるとされていたが、父ではなくで血のつながっていない主人公が座敷童を目撃する。その後父は荒れ始め、あるとき杜氏とともに遺体で発見される。主人公は父との約束を果たすために蔵を継ぐことを決意する、というお話。
 
古くからある醤油蔵を舞台とした物語です。
遠田さんの作品はこれまでいくつか読んでいますが、伝統ある職業を取り上げることが多いようです。醤油蔵の仕事がどういったものなのかが色々と知ることが出来てためになりました。
この作品のテーマとして家族の絆があります。主人公は父とは血が繋がっておらず、それでも自身のことを大切にしてくれたことを想う場面を始め様々な家族の絆を描いています。古めかしい感じがありながらも感動的でした。
作中にはミステリー要素も少し含まれています。その事実が明らかになることで家族の絆や愛が深まる描写はミステリー要素を上手く使っていて良いと思いました。
ただ一つ納得がいかなかったのは盗み癖のある母の過去と実情を知って主人公が考えを改めるシーン。物語の転機になる場面なのですが、時代背景が現代よりも古い設定だとしてもその考えにはならないだろうというのが正直な感想でした。
 
盗み癖のある母親に対して主人公が盗みで人に迷惑をかけ続けるなら一緒に死のう、と提案するシーンがあります。
これが言える人は今の時代でもほとんどいないので感心しました。癖は反省する/気を付けるでは絶対に直らないので、直したければ強硬手段で行く必要があります。この作中の母親の癖を死ぬ以外で直すとしたら手を切り落とすのが有効だと思います
今の会社の最初の部署にいるときに一つ癖を直した経験があります。私は爪をいじる癖があり、それを見たOJTの先輩が「爪いじる時間があるってことは仕事全部終わってるんだな。明日の朝一に来週納期の成果物全部揃ってなかったら覚悟しとけよ」と1週間あるはずの納期が朝一までに短縮されてしまいました。これは直さないと社会人として生きていくのは無理だと悟り、刑事が現場で使うような白手袋を一日中付けて物理的に爪をいじれないようにして直しました、直らなかったら次は指を全部切り落とす予定でしたが現在でも指は無事です。これくらいしないと無意識の癖は直らないと私は思っています。
 
上の方に書いた母親に対しての考えを改めるシーンが納得いかないことについて詳しく書きます。具体的には母親が窃盗症という病気だと判明したことで主人公は母のことを責められないと考えを変えているのですが、病気だから許す流れになったのは納得できない。
一番気に入らない点は母親本人が盗み癖に対して何も対処しようとしていないことです。きちんと理由は描写されていませんでしたが、父から「かわいそうだ」と構ってもらうためにわざと治していないと私には読み取れました。
病気=治したいもの と想像してしまいますが、利用価値があるから治さない人が最近増えているように私には見えます。特に人に話すほど自覚のある異変が生じているのに病院に行かない人はこの傾向があると思っています。ダイバーシティ化による病気持ちへの配慮、人から心配してもらえることによる承認欲求など病気によって得られる利益があるのは間違いありません。全員が優遇のために病気を治さないと決めつけるのは早計ですが、本当に治したいのであれば上に書いた癖の改善のように何かしら本人がアクションをしているはずです。
 
遠田さんの作品は舞台が珍しいものが多いので読んでいて楽しいです。