花の本棚

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櫛木理宇 死んでもいい

櫛木理宇 「死んでもいい」
櫛木さんの一番新しい作品を読んでみました。
 

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ミステリーの短編集となります。
歪な関係の男子生徒二人、ママ友、閉鎖的な田舎、ネグレクトなど、読んでみると各章が最近の社会的な問題をテーマにしているように私には見えました。短編集なので一つ一つはそれほど深い内容にはなっていませんが、心理描写も上手くてミステリーとしてもまとまっています。手軽に少しずつ読み進められるので時間があまり取れないときでも楽しめる作品です。
 
章の一つに他人の物や恋人を奪う癖がある女性が出てきます。「誰かが持っているということは良さが保証されているから」というのが彼女の言い分でした。
行為は許されませんが、考え方は面白い。どれが良いものか分からない状態から探すよりも早いのは確かです。自分の好みに合うか分からないのに?と私も含め疑問を持つ方は多いと思いますが、自分の好みやこだわりが分からないという人は結構いるようです。見たところそういった方々は「自分の嫌いなもの」はよく把握しています。そういった方々は「誰かが持っているもの」や「レビュー評価が高いもの」をとりあえず選んで「悪いもの」を避けるのだろう、と思い至りました。
 
作中にて「今までの生きてきて楽しいことなんて一度もなかった」と言うホステスに男性が惹かれるシーンがありました。
「私が幸せにする!」と男性が奮起するきっかけとして使われていたのですが、よく考えると暗い未来しか待ってない気がしました。この重いセリフは初対面では言わないと思うので、「今まで」の中にはそれまでその人と一緒に過ごした時間も全部楽しくないと言っていることになります。ということは仮に結婚などをして一緒になっても楽しくないのは変わらないということです。
私がもし現実で聞いたら「面倒臭い人だな」で一蹴するでしょうが、本書によるとこういった不幸や堕落のオーラに惹かれる人は一定数いるそうです。その主な理由は家庭環境だと書かれていたことから、周りからいくら警告しても直らないのも頷けます。
 
櫛木さんの短編集は初めてでしたが良い作品でした