花の本棚

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千早茜 ガーデン

千早茜 「ガーデン」
千早さんの別の作品を読んでみました。
 

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主人公の男性は幼い頃から人と関わることを避けて植物を偏愛しており、大人になった今も部屋の中で多くの植物を世話していた。同僚の女性たち、仕事相手の愛人などと接するうちに幼い頃に形成した自分の価値観が正しいのか疑問を持ち始める。植物を通して周囲、自分自身が変わり始めるというお話。
 
植物をテーマにした物語です。ジャンルは何かと聞かれると少々難しい作品でした。
自身の周りの人たちと自分の世話する植物が常に対比して描いていて綺麗な雰囲気と同時に主人公の偏屈さも上手く描かれています。様々な女性たちが主人公の人生観に干渉していく、というと村上春樹っぽい感じがしますが心理描写を含め内容はリアルに描かれています。
神秘さも魅力ですが少し個人的な解釈を入れると、主人公の人物像は近頃の人間関係の希薄さを描いているように見えました。「他人に何も期待するな」「自分の機嫌は自分で取れ」など最近言われ始めた人間関係の処世術を色々と詰め込んだらこんな人になる、を主人公が表している印象です。人間関係のストレスからは解放されていきますが、代わりに人間本来の魅力も無くしていることも描かれていると読み取れました。
 
主人公の男性の考え方が私自身の考えと共通するところが多くみられました。私もこんな風に見られていて、最後はこの作品の結末みたいになるのだろうか…と考えてしまいました。全部書くと長くなるので一つだけ紹介します。
作中で彼は人の要求に応えることに喜びを感じない、とよく口にしていました。似た表現で「期待に応える」というのがありますが、どちらにしても喜びを感じない点は私も同じです。
私は常に「自分がどうしたいか」で行動しているため、自分のやりたいことをして偶然にも皆の期待もそれだったら御の字という感覚でいます。かつては周りの要求を見て行動していた時期もあったのですが、環境が良くなかったせいか何をしても嫌われたために「嫌われるなら自分のやりたいことして嫌われた方が得」と考えるようになってしまいました。「期待に応えたつもりはない」というシーンは日常でもちょくちょくあります、作中の彼のようにわざわざ口には出したりはしませんが。
 
見たときはメルヘン的な作品を想像していましたが、中身はなかなかリアルに描かれている作品なので心理描写が好きな方におススメです