染井為人 「悪い夏」
以前読んだ「正体」が面白かったので別の作品を読んでみました。
主人公は生活保護受給者を担当する職員。自身の担当する受給者はいずれも言い訳ばかりでまっとうに生活しようとせず滅入る日々であった。あるとき同僚が給付停止をネタに受給者を脅迫していることを知る。真相を探るために調べていると他の受給者など社会の最底辺で暮らす人々がヤクザと関わっている事件に巻き込まれていくことになる、というお話。
生活保護をテーマにした作品となります。
生活保護をもらうまでの難しさを描いている他の作品を読んだことがありますが、こちらは不正に近い状態で生活保護をもらっている人を中心に描かれています。不正しているといえど生活が困窮している姿は本物で、貧困が様々な悪事につながっていることをリアルに描いています。もしかしたらこちらが本題だったのかもしれません。
ミステリーとしてみると伏線のつなぎ方が非常に上手いです。終盤にかけての展開を読むとあれってここにつながっているのか、と驚かされました。隠れている謎を解明する話ではないので推理しながら読む必要はありません。
作中にて生活保護を受けるほど弱い人間を攻撃して楽しいか?と疑問を投げかける場面があります。
はっきり言うとほとんどの人は弱い人間を痛めつけて楽しいと感じます。普段は表に出ませんが余裕がなくなり理性で抑えられなくなると誰しもそうなります。昔から変わらない人間の性だというのはもう周知の事実なので、それを知った上で弱いままで強くなろうとしない方に問題があると私は思っています。
弱い人を守るのは良いことですが見返りもなく守り続けるほど常に余裕のある人はいません。なのでその人が守ってくれる期間中に強くならないといけません。この時にずっと守ってもらえると勘違いして努力をしない人が多い。しかもその後に「今まで守ってくれてありがとう」ではなく「見捨てられた」と文句を言う人ばかりが目立つために弱い人を守るのは損だと感じる人が増えたと私は考えています。守るのをやめた方は何も悪くなくて、強くならないあるいは弱いままでいるなら長く守ってもらえるように努力しなかった人が悪い。
無償で人々をずっと守れるのはフィクションの中のヒーローだけです。
生活保護に関する考え方が多く出てくる作品ですので読むとためになると思います。