花の本棚

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矢樹純 夫の骨

矢樹純 「夫の骨」
以前読んだ「マザー・マーダー」が面白かったので別の作品も読んでみました。
 

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家族の隠し事から起こる疑心暗鬼をテーマにした短編集です。
子との血のつながりの偽造、死の偽造など不倫ですら生温く見えるほど暗いものを抱えた家族関係を描いています。途中までに順調な関係であったものがどういったきっかけから家族を疑い始め、積もりに積もって崩れていく描写はとても生々しい。
疑心暗鬼が起きる家庭が題材であるため、どの章にも家庭を持つのに向いてないような人物が出てきます。しかも視点が女性であることも多いことから向いてない人物は夫であることが多いので女性が読むとご自身の家庭で苛立つ出来事と共通するところが見つかるかもしれません。
また各章にはミステリーっぽい要素もあります。本作はそれぞれの章は独立していて繋がりはないので作品を面白くするためにそういった作りになっているという認識で問題ありません。
 
作中にて結婚や子供が出来たのを機に変わってくれると期待してあえなく裏切られるという描写が多くあります。
各所ではるか昔から見られることではありますが、昔に比べてさらに起きやすくなっていると考えています。何か物事があり人が変わるために必要なものはそれから受けるインパクトと集団圧力であり、今の時代の結婚出産はそのどちらも足りてないと私は思っています。
まずインパクトですが、近年の結婚率の低下からも見えるように結婚そのものが昔ほど重要な物事になっていません。そのため意識改革が起きるほどのインパクトがそもそもないので変わらなくても違和感はないと見ています。
次に集団圧力ですが、こちらも昔ほど機能していません。個の意志を尊重する今の時代では集団圧力がかかりようもないので当然のことでしょう。集団圧力は意志が弱い人を流すのに重要な要素となるため言い訳を用意されないと動けない人々への圧力がなくなったと考えています。昔はいたらしい「周りがうるさいから」と言いながら結婚する人を私もほとんど見ていません。
上記2つはいずれも個人差や地域柄はありますが、平均してみると昔より弱いとみて間違いないでしょう。
 
各章が独立しているのでサクッと読みたい方におススメです。