染井為人 「滅茶苦茶」
染井さんの新刊が出ていたので読んでみました。
コロナの流行によって人生が悪い方に転がってしまった3人のエピソードを描いた作品。
コロナによる日頃の鬱憤を晴らすために不良とつるみ始めてしまった高校生、コロナ最中の寂しさに耐えられずマッチングアプリで恋人を得た女性、経営するホテルがラブホテルであるためにコロナの助成を受けられず国に対して怒る男性、という人物たち。
コロナによって生活が一変し、それに順応しきれなかった結果どういった考えになってしまったかをリアルに描いています。心理描写の仕方が非常に上手くて、「コロナのせい」を建前にして普段ならやらないことに手を出していく人間の心の弱さが上手く描かれています。上記三人に対して「かわいそう」と思うか「これは自業自得だ」と思うかで、この作品全体に感じる印象が変わってくるでしょう。
終盤からラストにかけての展開が雑に片付けられているのだけは少々残念だった印象ですが、それ以外は楽しく読めました。
本作がコロナ禍のせいで過ちを犯した人たちを描いていたため、当時のことを思い出しながら読んでいました。今改めて振り返るとまだコロナの実態が分からないあの緊急事態の中で色々なことが試され、露呈したのではと思っています
例えば、自粛により友人などと楽しいことが出来なくなった時期にどれくらい耐えられたかで自分の孤独への耐性が測れました。案外平気だったという人は素晴らしいですが、自粛しきれず飲みに行ってしまったり、言い訳を並べて集まってしまったりした人は要注意でしょう。他にも家族がずっと家に居ると見張られているみたいで耐えられない、この趣味が出来ないとストレスが溜まりすぎて耐えられない、など自分が耐えがたいものは何であるか、どれくらいなら耐えられるかが測れたのではないかと考えています。あの緊急事態でも揺るがなかった部分については自身の耐性の高さを誇っていいのではないでしょうか。
せっかく分かったのだからという言い方をするのも変ですが、その経験から生活習慣や暮らし方を見直してみるのは良いことだと思っています。別の作品をきっかけに「年を取ると自分が弱い感情や物事により耐えられなくなる」と私は考えているので平穏な老後のためにも今のうちから対策打っておくことをおススメします。
作品としても面白く出来ていますが、当時のコロナ禍を思い返す良いきっかけになったので気になる方は読んでみてください。