花の本棚

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井上剛 悪意のクイーン

井上剛 「悪意のクイーン」
あらすじが面白そうに見えたので買ってみました。
 

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主人公は出産したばかりの女性。順風満帆な人生を送ってきたが出産日が近かったママ友のコミュニティで浮いていることを悩んでいた。コミュニティの一人が浮いている自分をフォローしてくれていることを支えにしていたが、夫とのすれ違いや思い通りにいかない子育てやコミュニティにより疲弊していく日々であった。
一方であるお嬢様中学校に通う生徒は学校でクイーンと呼ばれる生徒の親のせいで父親が借金を背負ってしまう。それを機に家庭が崩壊してしまい、後に父は自殺してしまう。

二つの話から生じた悪意の真相とは?というお話。
 
人の秘めた悪意をテーマにしたミステリー作品です。
悪意で人を陥れて不幸にする、という場面が多く出てきます。そのどれもが日常に転がっていそうな状況ばかりなのでリアル路線のホラー風な描き方になっており、その不気味さが上手く表現されています。こういった内容なので登場人物のほとんどが害悪な性格をした人物ばかりとなっています。読む人によっては気分が悪くなる可能性もありそう。

ミステリーとしてみると謎の部分の真相は読めば簡単に予想できる程度なのでそれほど気にしなくていいです。話を楽しくするために添えてあると思ってください。
悪意の舞台としてママ友コミュニティが出てきます。元々ママ友コミュニティに良い印象はありませんでしたが、本作を読んでなぜママ友コミュニティにトラブルが多いか自分なりの気づきがあったのでためになった部分があります。印象そのものは良くないままですが。
 
作中にて「悪意がない分余計にストレスだ」と主人公がイラついているシーンがありました。私が今まで怒った状況で悪意がなかったら許すパターンはなかったので悪意の有無を気にしたことがありませんでした。似た言葉で「悪気はなかった」というセリフがありますが、私の考えでは相手にその有無を確認する意味はないとしています。
ある場合は論外として、ない場合を考えるとその人は無意識に自分にとって嫌なことをしてくる人となります。ということはどちらにせよその人と関わるのをやめるべきという行き着く先は同じでこの確認は意味がない。つまりは「悪意のない人を責めている」という空気を作って形勢を変えているだけなのでこの類のセリフを口にする人にまともな人間はいないという結論です。
 
ママ友コミュニティについて書かれている作品をいくつか読みましたが、いずれもママ友は邪魔としか思えないほど問題が多い描写が目立ちました。
なぜママ友はこれほど問題が起きやすいのか疑問だったのですが、本書を読んで一つの結論が出ました。それは集まりが出来るきっかけがあまりに偶発的すぎるからだと考えました。ママ友コミュニティは出産後の病室が同じ、近所の公園で集まったことなどただ居合わせただけの人が集まって出来上がります。人と会話するときに不快さが生じないためには知性や品性が同レベルであることが必要だと本書では書かれていました。上記のきっかけではこれらによる選定が一切ないままコミュニティが形成されるために格の違う人種が居合わせることが大いに起こりえるということです。
こう考えるとママ友はたまたま居ただけのチープな集まりだから、後生大事にするものでもないとハッキリします。しかしそんなチープ集まりにすがりたくなるほど産後の母親は不安な気持ちでいっぱいなのかもしれません。
 
子育てをしている人もそうですが、コミュニティで上手く関係が築けないという人も読んでみると思うところがあるかもしれません