花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

岡崎琢磨 鏡の国

岡崎琢磨 「鏡の国」
書店で平積みされていたのが気になったので買ってみました。
 


亡くなった大物作家が残した遺稿「鏡の国」が発見された。デビュー前に完成させたこの作品は自身の経験を書いたノンフィクションであり、それを死の目前に修正したものであった。その中には身体醜形障害を発症して悩む姿や、自身の不注意のせいで顔に火傷を負ってアイドルの夢を絶たれた友人との再会といった、作家になってからの人物像とは違う姿が多く書かれていた。
著作権継承者である作家の姪は出版前の確認としてその作品を読むのだが、この作品には意図的に削除したエピソードがあるだろうと先に目を通していた編集担当は指摘する。削除されたエピソードは本当にあるのか?あるとしたらなぜ削除されたのかを考える、というお話。
 
ルッキズムをテーマにした社会系のミステリー作品となります。帯などにはミステリー作品として紹介されていますが、内容を見るとルッキズムに関する部分の方がメインのようでした。
SNSやネット配信、加工アプリなどにより見た目の良い人が世の中に溢れかえっているように錯覚してしまう現代では外見に関する社会問題が多くあることを描いています。外見を気にしすぎて社会生活を送れなくなってしまう身体醜形障害、人の顔を認識できない相貌失認といった外見に関わる疾患を持つ人々の生活を詳しく描いているため、読んでいて非常にためになりました。これらに共通するのは周囲の人々から「自虐風自慢」や「そんなことないよ待ちアピール」と取られてしまい反感を買うことが多く、一人で悩みを抱え込む傾向にあるそうなので気を付けたいですね。
ミステリー面については終盤の大きな展開がそれにあたります。これについては普通に読み進めれば大方予想がつくので頑張って推理するほどではありません。物語を面白くするために添えてある、という程度の認識でOKでしょう。
 
作中にていつかは失われると決まっているものに自分の一番の価値を置いてはいけない、と登場する精神科医が話していました。身体醜形障害と診断された女性に対して語っていたのですが、これは私も正しいと考えています。
外見を武器にして仕事をしている人は私の周囲にはさすがにいませんが、高残業をして仕事を終わらせることを武器にしている人なら何人も見たことがあります。若い時であれば体力と気力に物を言わせて高残業を得意としてもいいですが、その二つは加齢によりいつか必ず失われます。不思議なことにこの自然の摂理が自分には来ないと過信している社会人は想像以上に多くいます。だからこそ体力と気力があるうちに勉強や経験を重ねて別の価値に乗り換えていく必要があるのでしょう。
私が今の職場で価値を置かれている理由として年齢のわりに体力と気力が充実している点があると自覚しています。ただこのまま体力自慢で売り込み続けると先がないので、主力は別に用意しておき体力勝負「も」強いとすれば良い価値になるだろうと踏んでいます。
 
ルッキズムの問題は現代社会では大きいなものなので、気になる方はチェックしてみてください。