佐野広美 「わたしが消える」
「誰かがこの町で」が面白かったので佐野さんの別の作品を読んでみました。
元刑事の男性は軽度の認知障碍と診断されてショックを受けていた。あるとき離れて暮らす娘から施設の前に置き去りにされた老人の身元を突き止めて欲しいと依頼される。彼もまた重度の認知症で意思疎通が不可能であり、自分の未来の姿と重なることから調査を引き受けることにした。調べてみると彼は他人の戸籍を渡り歩いている形跡があり認知症になる前は罪を犯して逃走していたのではと疑い始めると、警察組織と思われる人物から調査を止めるように警告されるというお話。
警察組織にまつわる刑事物風のミステリー作品となります。
主人公は刑事ではないのですが元ということもあって物語の流れや雰囲気は刑事物に近くなっています。ということもあって身元不明の男性の謎にせまっていくオーソドックスな内容となっています。私としては認知症と絡めたミステリーが出てくるのかと期待していたのですが、中身を見ると認知症は物語のキッカケであってメインではありませんでした。
認知症の代わりに描かれていたのが警察組織による社会コントロールの話でした。謎のネタバレになってしまうので内容は書けませんが陰謀論めいた話が多く描かれていたので、あまり鵜呑みにせず話を面白くするための設定と割り切って読むと楽しめると思います。
作中に警察組織が事件の故意に引き起こして社会をコントロールしている、という陰謀論的な話が書かれていました。何年か前に濱嘉之さんのある作品を読んでつまらないと書評を書いたところ、濱さんが描いているのは警察の闇で~とひたすら語る方に絡まれて面倒なことになったのを覚えています。これ以降濱さんの作品は二度と読まないと誓った。
陰謀論について考えるのは個々の自由なので好きにすればいいですが、世に出ているような陰謀論はだいたい当たってないだろうと思っています。理由は簡単で、言っている本人が生きているからです。もし巨大な陰謀を本当に言い当ててしまったら、その人は組織によって即座に消されてしまうのではないでしょうか。
陰謀論について考える考察遊びは頭の体操になるので、本作でも取り上げていた認知症の予防にはなるかもしれませんね。
素直な内容なので深く考えずに読みたいときにおススメです。