花の本棚

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杉井光 世界でいちばん透きとおった物語

杉井光 「世界でいちばん透きとおった物語」
昨年の話題になって気になっていた作品を買ってみました。

 



 
主人公の男性は有名ミステリ作家の隠し子であった。産まれてから一度も父には会ったことがなかったが、あるとき父が亡くなったと彼の正式な息子から知らされる。彼が言うには父は最後の作品として「世界でいちばん透きとおった物語」と名付けた小説を書いていた形跡が見つかったらしく、その原稿を探して欲しいと依頼される。
父と交際していた女性や最後の作品に関わったであろう人たちと会い、原稿を探すのと同時に父のことを知り始めるというお話。
 
エンターテインメント系の作品となります。
本作一番の見所は帯にも書かれている「紙の本でしか体験できない感動」の部分です。おそらくこれをやるために物語の流れや登場するキャラクターの設定などを作っていったのでしょう。それだけ注力して作られているだけあって非常に感心させられました。
他の部分はどうなのかというと、物語が進むにつれて父親に対する認識が変わっていく主人公の心情変化が上手く描かれている点が見所だと思います。最初は自分のことを見捨てたというのみだった考えが関係者に合うにつれて変わっていく描写は本作の面白い点になるでしょう。
 
作中で主人公の父が「本を読まない女は頭が悪いから嫌い」と考えていると描いていました。考えてみるとこの主張には同意できる部分が多いと私は思います。
「から嫌い」の部分は個人の趣向なので置いておくとして、「本を読まない人は頭が悪い」は現在私がいる職場でも体感しています。「本を読まない」はどういう意味かと言うと、自主的に新しい情報を得ていないことを意味します。当たり前の話ですが一般的な人間は自分が経験したことや知っている範囲内でしか考えることが出来ないので、本を読まないとは知っている範囲が狭くなり経験だよりになります。
具体的に私が職場で見たケースをお話すると、本を読まない人に意見を聞くと「過去の担当業務につながっている」場合は意見が出てくるので優秀です。ところが新しい試みなど先が見えない領域や立場によって見方が違って正解が定まらないような議題で意見を聞くと「人による」とか「これは難しいね」という毒にも薬にもならぬ意見しか出さなくなります。こういった経験でしか考えられなくなることを「頭が悪い」と定義するとしたら、「本を読まない人は頭が悪い」は正しいだろうと私は考えています。
「本を読まなくても知識が豊富な人もいるだろ」という反論がありそうですが、その人は本でない別の何かで知識を得ているだけなので本質的には本を読む人と一緒です。あくまで「本を読む」は手段であって新しい知識を得るための行動なら全部同じです。
 
本好きな人なら読む価値がある作品なので、ぜひチェックしてみてください。