花の本棚

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東野圭吾 あなたが誰かを殺した

東野圭吾 「あなたが誰かを殺した」
加賀シリーズの新刊が出ていたので買ってみました

 



 
ある別荘地にてパーティーをしていた団体のメンバーが次々と殺害される事件が発生した。犯人は逮捕され、死刑になるために誰でも良いから殺害したかったと供述しているが、被害者家族たちはそれに納得できなかった。そこで彼らは再び事件のあった別荘地に集まって真相を探る会を開催することにし、その中の一人が解明の手助けとして長期休暇中の加賀を連れて参加することとなった。
彼自身も事件には興味を持っており「誰でも良かった」と犯人は語っているが多くの中からこの団体を標的にした理由が何かあるはずだと考え、この会でそれを解明しようとする、というお話。
 
シリーズ物のミステリー作品となります。
警察の捜査が一通り終わった後という設定なので新しい手がかりを探すよりもいかに参加者たちから情報を引き出すかと言う部分を中心に描かれています。このあたりはこれまでの加賀シリーズの中にはなかった展開で見所の一つとなっています。
真相の内容なども話が進むにつれて徐々に明らかになったり、予想してない方に向かったりなど話の展開も面白くて最後まで飽きずに読めます。色んな作家さんを読んでから東野さんの作品を読むと、構成や書き方などの上手さはやはり凄いと改めて感じますね。
それとシリーズ物ではありますが前作と特につながりはないので本作だけ読んでもOKです。
 
作中にて被害者遺族からすると誰が殺したかはどうでもよくて、どうやって殺したかとなぜ殺したかが重要になる、という話がありました。現実的に考えるとこの考え方の方が正しいだろうと私も思います。
殺人事件はさすがに私の周囲で起きたことがないですが、仕事や人間関係などのトラブルにおいて「トラブルの主犯は誰か」が重要視されている場面はなく、理由や方法を探る動きになることがほとんどでした。なぜそうなのかを考えてみると、端的に言うとトラブルの当事者たちが自分に責任が無いと確証が取れないと不安だからです。例えば最近賠償金が決まった話が飯塚幸三の事件ですと、なぜ彼が暴走したかの原因と対する彼の弁明が明らかになっているからこそ「あんなところにいた被害者が悪いのでは」とか「車に欠陥があったのでは?」いう憶測がまったく出てこないのです。
上記の事件は「身近」とは言えないので最近私が当事者になったトラブルを紹介しましょう。ある仕事において私が多大な屈辱感を受けて膨大な怒りが生じたため、何が理由か一切言わずに上記と共に「お金をもらってもこの仕事をやらない」とチームに対して宣言する事態になりました。そうした結果、チームメンバー全員でなぜそうなったかをヒアリング、解決策を検討する会が開催され私が考えた以上の大事にまで発展してしまいました。その会においても「誰が」の部分は事実関係程度で「屈辱感と怒りの理由」「やりたくない理由」という「なぜ」の部分を考える時間がほとんどを占めていました。おそらく最初に理由→宣言の順で展開していたらマネージャーと一対一で説教されるくらいで終わったのでしょうけど、理由が明かされていないためにチームメンバー全員に危機感が伝染したのだと見ています。
殺人事件でない日常的な業務トラブルですらこれほどの威力を持っているのですから、「理由が見えない」ことは想像以上に人を不安に陥れる要素になるのだと思います。これに比べたら「誰が」の部分は大した問題ではなく、重要とされるのは小説などの娯楽だけの話なのでしょう。
 
このシリーズはどれも面白いので気になる方はぜひチェックしてみてください。