花の本棚

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斜線堂有紀 楽園とは探偵の不在なり

斜線堂有紀 「楽園とは探偵の不在なり」
斜線堂さんの「廃遊園地の殺人」が面白かったので別の作品を読んでみました。

 

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あるとき天使と呼ばれる生き物が現れた。その世界では二人以上人を殺すと天使によって地獄に墜とされる仕組みになっていた。その結果、凶悪犯罪は減少して探偵である主人公も解決すべき事件の発生自体が減っていた。あるとき天使が集まるという島を訪れたところ、主催者やゲストが次々殺害される連続殺人事件が発生する。天使の出現によって不可能となってはずの連続殺人を解くというお話。
 
SF風のミステリー作品となります。
推理に関わる伏線が随所にあってその繋がり方も上手い。この点は「廃遊園地の殺人」と変わらず同じでした。SF部分によって完全な単独による犯行を禁じていることで余計なところまで考えないように誘導しつつ、その設定を活かした部分もあって使い方が上手いと思いました。
またSF部分は推理部分だけでなく社会問題的な題材としても描かれていました。天使によって犯罪抑止になるかと思ったら「一人までは殺してOKと天使が認めている」や「やるならまとめて殺した方が得」という思想によりむしろ事件が増えている描写は現代の事件性について描いているところがあるように読み取れました。この作品の出版時期からし京都アニメーション放火事件を意識しているのかもしれません。
 
作中にて天使の出現によって逆に殺人への敷居が下がっているという描写が多くありました。現実世界の方で見てみると直近では中学生の刺殺事件によりいじめを苦に自殺するより相手を殺した方が得なのでは、という意見が出ていました。その後この事件がどうなったか情報が出て来ないので不明ですが、殺し得の方向には絶対したくないだろうと思っています。
なぜかというと学校側で情報を制御出来ないからです。いじめによる自殺であれば基本的に警察の介入はないので情報を出す出さないを学校側が操作できますが、殺人事件の場合は確実に介入し主導するのでそれが出来ません。情報のコントロールが出来ることで隠蔽や証拠隠滅が学校側主導で出来るため教師たちにとって都合がいいのです。
とはいえ情報のコントロールが出来なくなると悲惨なのは学校に限らず一般企業も同じです。いじめをパワハラに置き換えれば同じようなことが起きるので学校だから特別というわけではありません。
 
ミステリー作品が好きな方であればぜひ読んでいただきたい作品です。