花の本棚

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新川帆立 縁切り上等!

新川帆立 「縁切り上等!」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。

 



 
夫の浮気を知ってしまったのを境に彼のすべてに耐えられなくなった妻が子供を連れて夫から逃げていた。逃亡の最中に匿ってくれた女性は縁切寺の娘であり離婚を専門とする弁護士であった。彼女に相談し、有利に離婚する準備のために一旦夫のもとに戻って浮気の証拠を淡々と集め始める、というお話。
 
離婚をテーマにした短編集となっています。
各章が離婚専門弁護士のもとに来た案件になっており、上に書いたあらすじは最初の章のお話です。離婚のためにはどんな準備が必要で、どうしたら少しでも多く相手からお金を取れるかを面白おかしく解説してくれています。離婚がテーマなわりにドロドロな感じがなくエンターテインメント系として読める雰囲気になっているため、力を抜いて楽しめるのが良い点でした。
案件の内容も様々で良く聞くありがちなものから同性婚カップルの離婚といった今話題のLGBTに絡んだ珍しい案件もあります。このあたりはまったく知見がなかったところなので読んでいてためになり、本作の見所の一つにもなります。
本作に出てくる案件は基本的に妻が夫と離婚したい、というものなので登場する男性は「ダメな夫像」として書かれています。男性が読むと耳が痛い話がたくさん出てきてしまいますが、そういう物だと割り切って読めば腹も立たず楽しめるかと思います。
 
本作で離婚の案件が色々出てくる中で一つ気になることがありました。それはパートナーに対しての不満を言うと「それはお付き合いの段階で見抜ける部分でしょ」と言われているパターンがあることです。結婚前にこういうところを確認しましょうという情報が情報誌やネットなどにいくらでも載っている時代なのにお付き合いの段階で見抜けないなんて本当にあり得るのか?という疑問は面白そうなので真剣に考えてみました。
私が達した結論は「見抜けなかった」のではなく「当てが外れた」が正しいのではないでしょうか。端的に言うと気になる点をパートナーが「この先きっと直してくれる」あるいは「改善を続けてくれる」と当てにしていたらそうならなかったということです。結婚後のパートナーへの不満でありがちなのは生活面でのだらしなさ、細かな所作や気遣いあたりがよく挙がっています。これらは「ちゃんとやらないと嫌われる」と情報が色んなところに載っていることから大事な場面では意識的に気を付けて行動する人が多い部分になります。例えばパートナーを家に呼ぶときは部屋をちゃんと片付けたり、食事の時に汚い食べ方をしないようにしたり、という行動が該当します。これらは「パートナーと会う日だけ頑張って直す」ならできても、「常に出来るように直す」までできるかはお付き合いの段階で見抜くのは至難の業です。仮に後者ではないと見抜いたとしても、出来ないけど一生懸命直そうとしている姿勢を見せている人を否定的に捉えるのは人情的に難しいでしょう。またこれらを一々気にしていてはパートナーと結ばれること自体が不可能になってしまうので、今後も頑張って直し続けてくれることに賭けて結婚に踏み出すしかないのはもう仕方ないことだと思います。
これが「それはお付き合いの段階で見抜ける部分でしょ」と言われしまう項目に結婚後に不満を持つ仕組みなのではないかという結論になりました。
 
どうしても「常に出来るように直す」が出来る人かを見極めたいならどうしたらいいか…を考えてみたところ良い案を思いつきました。それは生活習慣を変えたことがあるかどうかです。分かりやすいものですと禁酒や禁煙、健康を維持するために何かする習慣を作ったことがある、というものが挙げられます。これらは「今のままじゃ良くない」という事態に直面して欲望的にはやりたくない行為を習慣に入れる努力が出来る人であることを表しています。これは上で書いた「常に出来るように直す」が出来る人を探す有力な手掛かりになるだろう、というのが私のアイディアです。
 
ライトで楽しい雰囲気の作品ですので、気になる方は気軽に手に取ってみてください。