花の本棚

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窪美澄 たおやかに輪をえがいて

窪美澄 「たおやかに輪をえがいて」
窪さんの作品で面白そうなものを見つけたので読んでみました。

 



 
主人公の女性は結婚して二十年間、平穏に暮らしてきていた。あるときクローゼットの中に風俗店のポイントカードが落ちているのを見つけてしまう。そのことを夫に問いただすことも出来ず、家庭に何も問題がないと思っていたのは自分の独り善がりだったのではと悩み始めてしまう。その後、高校の同窓会で久しぶりに会った友人は全身を美容整形して同い年とは思えぬ風貌をしていた。周囲からは浮いていたが、自分の人生を謳歌している彼女のことを羨ましく思い始める、というお話。
 
女性の再出発する「卒婚」をテーマにした作品。
子供の自立を機に母親としての役目を終えて夫や子などから離れることを「卒婚」というそうです、本作で初めて知りました。本作は女性が主人公なので母親が卒婚するのを中心に描いていますが、おそらく卒婚自体は男女どちらにでも使う言葉のようです。窪さんの描写の仕方が非常に上手いこともあり多様性を重視する今の世の中であればこういった生き方も素敵だな、と考えながら読むことが出来ました。近年熟年離婚の話題も少なからず上がるので、そうなるよりはこちらの方がお互い前向きに離れることが出来て良いのではと思いました。
一方で、女性が卒婚する話なので男性側はあまり良い描き方がされておらず、耳が痛い発言もありそうです。とはいえそれを踏まえても読んでみると新しい考え方など得るものはあるでしょう。
 
作中に登場した風俗店で働く女性の説明によると、男性が風俗店に通うのは性欲の解消だけでなく寂しくて優しさに飢えているからだとのことでした。この考え方は面白くて、おそらく正しいのだと思います。
上の話で考えると風俗店は男性がお金を払って女性に優しくしてもらうためのお店になります。ここから分かるのは、男性は性行為を受け入れてもらえることで優しさを感じるということです。汚らわしいと感じる方、特に女性は多くいるでしょうけどそれはあくまで人間としての感性であって、動物として考えれば自分の種の存続を受け入れてくれる女性に最上位の優しさを感じるのは至極当然と言えるでしょう。これを女性の立場にするとホスト通いが該当するでしょう。こちらはお金を払うことで男性が振り向いてくれるシステムなので、性行為の有無はそこまで重要ではなそうです。
私は上記の場所でお金を使ったことがないのですが、もらえる優しさと払う金額が割と釣り合っているからこそ現代まで潰えずに続いている商売なのでしょう。
 
作中にて風俗店で働いている人たちの話をしている中で「仕事に貴賤はない」という言葉が出てきました。気になって調べてみるとかつての日本において士農工商は国の発展においてどの職も必要だったことから言われたそうです。それを踏まえて考えると、この言葉は現代で使わない方が良いという結論になりました。
現代では職種がかつてよりも膨大に増えているというのもありますが、一番の問題は貴賤の基準がかつてとは違うからです。当時の時代ですと国のために働くことが全国民の共通認識だったからこそ、「国の発展への貢献」を基準にすると「貴賤はない」と言えました。現代では何のために働くかが人によって異なることはもちろん、「国の発展への貢献」によって仕事の貴賤を測る人はほとんどいません。これらを考慮すると「仕事に貴賤はない」は今の時代ではまったく通じない時代遅れな言葉となります。
「仕事に貴賤はない」もそうですが、過去の偉人の名言を使うときは価値観や時代背景が変わっていることを踏まえても現代で通じるか考えてからにしないと、ただの時代遅れの人になってしまうので気を付けるべきでしょう。
 
描写が非常に上手い作品ですので、気になる方はぜひ読んでみてください。