花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

下村敦史 逆転正義

下村敦史 「逆転正義」
下村さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 



 
正義感をテーマにした短編集となります。
日常生活やSNSの中で行き過ぎた正義感によって炎上やトラブルにつながることがよく見られるようになったことに対しての警笛として本書が描かれているように読み取れました。いじめの主犯者の個人情報を晒す、犯罪者の子供を攻撃しても許される、などといったテーマの章があり、どの章でも自分が正義だと信じて疑わない人たちが現れます。作中では正義を執行する正当性が一見あるかのような背景があるのですが、それを理由に攻撃する周囲の人たちの描写は「この行いは本当に正しいのか?」とつい考えてしまうようなものになっていて面白いです。
各章には本当に正義のある行動をしているのは誰か?というミステリー要素があります。ミステリーといっても推理して解いたりする必要はないのでエンターテインメント系の作品として楽しむのが良いかと思います。
 
作中では行き過ぎた正義感によって過剰な攻撃を加える人々の描写が多くあり、「「この行いは本当に正しいのか?」とつい考えてしまう」と上に書いたので、どういったことを考えたのかを書いてみます。
考えた結果、「攻撃する行いは正しいのか?」という問いかけは意味がまったくないという結論に達しました。まず「攻撃する行い」はというのは拒否に分類されるリアクションの一つです。何か物事が目の前に現れた時に自分にとって要不要を判断し、その強弱によってリアクションが変わります。つまりどんなリアクションを取るかは各々の価値観によって決まるため、個性が尊重される今の時代ではどんなリアクションをすることも尊重されるということになります。個の価値観と言いましたが、もしかしたら日本人として広く持っている価値観に当たるのかもしれませんね。いずれにしても価値観に正誤は存在しないので問いかけ自体が無意味ということになります。
今の時代にこんなナンセンスな問いをする人の狙いは何なのかと考えると…自分が何かしらの悪事をしているからそれを隠すために論点を無理矢理作り出している、というのが一番有力なのではと考えています。他の犯罪を扱う作品で何度も言及していますがそもそも攻撃されるような悪事をしなければいいだけであり、問題解決の難易度でいえば悪事をしないようにする方が圧倒的に簡単です。悪事をしないのが難しいというのであれば、日本から出て行ってその悪事をしても許される国に移り住めば良いのです。今はグローバルな時代で日本に住むことにこだわる必要はまったくないので、自分の価値観を認めてくれる国を探し歩くのが良いでしょう。
 
下村さんは題材が面白いのでつい買ってしまいます。この作品も面白いので気になる方はチェックしてみてください。