花の本棚

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夏川草介 勿忘草の咲く町で 安曇野診療記

夏川草介 「勿忘草の咲く町で 安曇野診療記」
あらすじを読んで内容が気になったので買ってみました。

 



 
高齢者の地域医療を担っている病院に研修医の男性が配属される。高齢の患者ばかりを相手にするため若い研修医の未来のためにならないと受け入れを渋る中での配属だったため、院内では彼を変わり者として見ていた。常に死が付きまとい、仮に一命をとりとめても延命の問題などが出てくるといった高齢者医療の現場で看護師と研修医が悩み続けながら患者と向き合う、というお話。
 
高齢者医療をテーマにした医療系作品となります。
研修医と看護師の視点から高齢者たちとどう向き合うべきかを悩んでいる描写が非常にリアルです。医療現場は高齢者に対してどこまで治療を続けるべきなのか?正解がないとしたら医療に携わる者としてどう考えていくのか?と登場人物たちが悩む姿は現役のお医者さんだからこそ描けるリアリティが出ているように思えました。もしかしたら本書で描かれていた医者たちの議論を実際にしてきたのかもしれませんね。
ドラマみたいな立派な医療なんてものはなく、目を背けたくなるような汚らしい医療が高齢者医療のほとんどであるという登場人物の主張には納得してしまいました。日本人の年齢層から見ても本書で描かれているような事態は増え続けていき、誰もが向き合わなくてはならない実情なのだとあらためて実感しました。
また医療側だけでなく患者家族側の描写も同様にリアルな描写が描かれています。家族の死を納得しない、考えることを放棄して病院にすべて丸投げする、など内容は様々ですがどれもリアリティがあります。こちらも本作の見所になるでしょう。
 
作中では医療の未来を考えると高齢者医療にリソースを割くのは避けるべきだという主張が度々出てきました。医療現場を知らないなりに考えてみたのですが、高齢者医療にはリソースは割いた方が良いと考えています。
理由は高齢者医療が医療の資本元になるからです。以前別の作品でも書いたことですが、現代ではダイバーシティの広まりによって社会的優位を取るために社会人は命に関わらないものでない限り病気を治さないのが主流となっています。つまり20~60代の人々は病気の快復を望んでいないので診断が出た後は治療に来ません。そうなると医療の財源確保のために上記の年齢層より上である高齢者にリソースを割くのは理に適っていると言えるでしょう。作中で「医療をサービスにしてはいけない」と書かれていたのですが、それと同時に「医療はボランティアではない」のでお金をどうするかは考慮するべきでしょう。ダイバーシティが見直される可能性ももちろんありますので世の中の動きを注視して方針は変えていかないといけませんね。
 
高齢者医療に興味があって気になる方はぜひ読んでみてください。