花の本棚

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織守きょうや 301号室の聖者

織守きょうや 「301号室の聖者」
先日読んだ「少女は鳥籠で眠らない」の続編がちょうど新しく文庫で出ていたので読んでみました。
 


主人公の新人弁護士は医療過誤の案件を担当することとなった。病棟を訪れると治療できる見込みのない患者も多く入院していることを知り、二か月前から入院している少女と出会う。案件のために聞き込みをするとその病棟は手一杯の状況で患者のケアが十分ではなく、スタッフも心苦しく感じており預けている患者家族もそれを汲み取っているという状況であった。しかしその後最初の事故現場である301号室にて患者が立て続けに不慮の事故で亡くなってしまう、というお話。
 
「少女は鳥籠で眠らない」の続編となります。前作は短編集でしたが本作は長編です。
長編になったことで心理描写と社会問題の描写が増えていて前作とは違った面白さがありました。回復の見込みがなく死を先延ばしにしているような状態の患者に対して医療スタッフや家族は何を思い、どう向き合っていくのかという描写のうまさは本作の見所の一つでした。
法律に関するミステリーの部分は後半から出てきます。一見事故に見える患者たちの死亡の真相には法律が絡む思惑がある、という流れになっていてこの辺りは前作から引き続き本シリーズの見所として楽しめる部分でした。
 
作中にて医療スタッフに対して患者の数が多くてケアが行き届かないという問題を描いていました。私は医療方面の事情は詳しくないですが、全体を見ると今後医療スタッフはどんどん足りなくなるだろうと思っています。
昔であれば死んでしまう弱者も生きられるようになったのは医療が発展したから、という考え方があるようです。これが正しいとすると、病院にお世話になる人は発展すればするほど増えていくことになります。一方で医療施設のキャパシティが増加するような発展はほとんど聞きません。つまりキャパシティ(社員数)はそのままで仕事量だけは肥大するというどの企業にもありがちな状況が発生します。
こうなったときによくある対処法は仕事に対して優先順位を付けて低いものはやらない、となるのですが医療に当てはめると優先度の低い患者をケアしないという話になってしまいます。その先にあるのは治療してもらうために弱者同士で弱さ争いをしたり、金になる治療が優先されたりとあまりよくない優先順位決めが起きると想像してしまいます。
私は病院にお世話になったことがないので医療現場がどれくらい大変かは見たことないのですが、多種多様な弱者を増やしすぎた反動が現れ始めているのではないかと思っています。
 
前作よりも心理描写に重きを置いた内容になっていますので、気になる方は読んでみてください。