花の本棚

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南杏子 いのちの停車場

南杏子 「いのちの停車場」
南さんの作品で気になるものを見つけたので読んでみました。

 

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在宅医療をテーマにした作品です。短編集になっていて各章で様々な在宅医療のケースを主人公の医師の視点から描いています。
現代では難病になったときでもどのような治療計画をするかを患者の意志で決められるようになったため、最期を自宅で迎えたい人が増加していると聞きます。しかし在宅医療の現実はどうなのか?というのを患者、その家族、医師の視点からリアルに描いてくれています。患者も病気や投薬で辛いですが、在宅医療を受け入れる家族たちも同じくらい辛く、在宅医療の困難さを知らされました。在宅医療が出来るからといって良いところばかりではないはずと思ってはいましたが、改めて現実を再認識させられました。
 
作中にて在宅医療に患者の家族が耐えられない理由の一つに日に日に弱っていく姿を見るのが辛い、という点が挙げられていました。そもそも在宅医療で入院より上の治療方法が取れるはずがなく、ほとんどの場合はもう治療手段がないそうです。
そういった点もあって患者の死を受け入れる覚悟がないと患者家族の方が常に不安に駆られる状態になりトラブルが多くなるとのこと。この問題はかなり扱いが難しいだろうと思います。在宅医療を希望するのは患者である点から、患者と家族の関係が非常に良くないと成り立たないからです。最近親ガチャという言葉がちょっとした話題になっていましたが、家族の仲が悪い家庭が増加しているように感じます。私も他人の家庭まで覗いているわけではないので何となくの雰囲気でしか言えませんが、個人としての幸せを追求するのが現代のトレンドとして強く、家族としての幸せを求めるような事象は起きていないはずです。私自身まだこの問題に直面していないので考え切れていないですが、いつかやってくる問題ですので本書で知ったことは覚えておきたいです。
  
先の高齢化に伴ってこの問題は重要で一読の価値があると思いますので、気になる方は是非読んでみてください。