花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

逸木裕 世界の終わりのためのミステリ

逸木裕 「世界の終わりのためのミステリ」
逸木さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 



 
舞台は人間の意識と記憶を移植できるヒューマノイドが開発された世界。ある女性型ヒューマノイドが目覚めると人類は消失しており、数少ないヒューマノイドだけが活動している世界になっていた。本来ヒューマノイドは移植元の人間の記憶によって生きる目的を持っているのだが彼女は記憶が無くなっていて生きる目的がなく、組み込まれた安全装置によって自身を破壊することも出来ないために絶望してしまう。その後クイズプレイヤーの記憶を持ち人類が消えた理由を解くために旅をするヒューマノイドと出会い、自身の記憶を探すために旅を始めるというお話。
 
SF系のミステリ作品となります。
世界観の作りが非常に凝っていて面白い。作中に登場するヒューマノイドの仕組みや制約は実際に現実に現れたらそういったものがありそうだと思えるほどによく練られたリアリティのあるものとなっています。また、それらを踏まえるとヒューマノイドではこういった行動が出来ないはずなのにどうやって実施したのか?もしかして人間の生き残りなのか?というミステリ要素へのつなげ方も上手くて読んでいて思わず感心してしまいました。
また登場するヒューマノイドたちが意識と記憶を移植するに至った背景や心情についても上手く描かれています。無限に生きられることで無限に作品を創れること喜ぶ芸術家、五体満足に戻って再び活動したかった登山家など、こういった理由なら作中のヒューマノイドは実際に出てきたら需要ありそうだと思えてくるような内容だったのでこちらも見所になるでしょう。
 
作中に出てくるヒューマノイドの説明が色々とある中で良いと思う設定が一つありました。それは意識と記憶を移した時点より後に元の人間側に起きた記憶などの変化が反映されないことです。これがルール的にOKだとしたら需要ありそうだと思います。
上記の何が良いかというと自分にとって最高の意識と記憶のタイミングでヒューマノイドに移すことが出来る点です。今と過去の自分を比べてあの時が一番良かった/楽しかった、あの頃に戻りたいなと考えてしまうのは多くの人が経験したことあるでしょう。それを疑似的に叶えてくれると考えれば高額を払ってでもやりたい人はいると見ています。意識を移すって具体的にどうなるのかなど細かい懸念はありますが、そこはSF作品なので夢がある方向で捉えておきましょう。
ちなみに私は上で書いておきながら「あの頃は良かった」とノスタルジーになったことはほとんどありません。過去の楽しさももちろん覚えていますが、今の状態も努力を重ねたおかげでそれに劣らないくらい良いものを保てています。とはいえ重ねた老いによっていつかは問題が出てくるのは避けられないので、対策だけはしておきたいところです。
 
話としては全体的に軽めに作られているので、気になる方は気軽にチェックしてみてください。