花の本棚

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三日市零 復讐は合法的に

三日市零 「復讐は合法的に」
あらすじを見て面白そうだったので買ってみました。

 



 
主人公の弁護士が法律の知識を使って合法的復讐の代行を請け負うミステリー短編集となります。このミス大賞2023年の隠し玉の一つとなっています。
法律に沿わないからこそ法で裁けないような権力者からどこにでもいる小悪党にでも報復することができる、という珍しい内容なので読んでいて面白い。二股をかけつつ貢がせて捨てた恋人、「うっかりしてた」を逃げ道にして小銭を稼ぐフリーター、など登場するターゲットは本当に規模の小さい悪党が出てくるので、力を抜いて読むことが出来ます。
また各章では恋人間でのトラブル、個人情報の暴露、などの社会問題と法的な対応について説明されているのも本作の見所になるかと思います。これらの被害者は法的に訴えることはできないが復讐をすることで傷ついた尊厳を取り戻すことができるので復讐の価値はある、という主人公の考え方は共感できるところがありました。
ちなみに合法復讐の依頼料は「ボーナス3,4回分」と主人公が言っていたので、日本人の平均ボーナス額でみると200万円ほどになります。尊厳を取り戻すためにこの金額を出せるかな?というのも考えながら読むのも面白いでしょう。
 
作中に出ている子悪党にうっかりだと言い張れば逃げられると考えて悪事でお金を稼ぐフリーターに対して主人公が故意か過失かが論点になるのは法廷だけと言うシーンがありました。言われてみればこの点を真剣に証明しあっているのは法廷以外にはなくて、たいていの場合は争いもせず一方的に許しを押し付けるか、私のように絶対に許さないかのどちらかしかない。
嘘のうっかりによる逃げで一番多いのは高齢者によるボケたふりでしょう。老いによる認知機能の低下は仕方ないことと認識されている場面は多いので、大抵の小さい悪事は許してもらえるくらいの効果はあります。しかし、社会人である私が一番目にするのは上記の嘘のうっかりではありません。それは病気による嘘のうっかりです。どの種の病気かは無関係にみな口を揃えて「病気のせいで余裕がなくなって、やるべきことをうっかり忘れてしまう」と主張してきます。特に最近はダイバーシティにより「病気で」と頭につければ上記のボケたふりよりも強力な手札となります。
この病気による嘘のうっかりは実は見破る方法があって、それは本人が対策をしているかどうかです。症状が軽いときにうっかりで忘れていまいがちな業務をちゃんと片付けておき迷惑がかかる確率を下げるとか、一日でも調子良いが増えるように健康に関する行動はきちんとやるとか、病気を治す方向以外にも努力できる箇所はいくらでもあります。病気によるうっかりで同僚に迷惑がかかっている事実を前にしてもこれらのようなことを一切やらないのであれば、それは嘘のうっかりと見て間違いないでしょう。
 
少々変わった法律系のミステリーとなりますが、内容は面白いので気になる方はチェックしてみてください。