花の本棚

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櫛木理宇 老い蜂

櫛木理宇 「老い蜂」
櫛木さんの新しい作品を見つけたので読んでみました。

 

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女性たちが高齢男性からストーカー被害にあっていた。家族や警察を頼るが相手が弱々しいであることから大ごとにすべきではないと宥められるが、ストーカー行為はどんどんエスカレートしていく。
一方である事件で男性が殺害され、その妻が行方知れずになっていた。捜査を進めると高齢男性が女性を連れ去ったという目撃情報があり捜索を進める。高齢者が主犯とみられる事件の真相を追うというお話。
 
前半と後半で作品の毛色が異なる作品でした。
前半は弱者を装っている老人からストーカー被害を受ける女性たちの恐怖と実情をリアルに描いた社会問題をテーマとした内容になります。被害を受けているのに加害者が社会的弱者だから強く出られない、という描写は現代の弱者に対しての扱いについても問題提起しているように読み取れました。
後半は事件の犯人とその動機を探るミステリー寄りに書かれています。明らかになる真相や新たな事件への派生など次々と展開が変わるので面白いです。
 
作中では相手が弱者だと弱い者いじめみたいで強気に出られない、というシーンが多くありました。私から見るとまったく共感できない意見です。理由はいくつかあり、一番大きいのは今の世の中では弱者に分類されるカテゴリが多すぎてキリがないからです。
昔は女性子供老人と肉体的な強さで弱者を分類していました。しかし現在では精神疾患、貧困、障害など弱者と言われている分類が増えすぎて弱者の方が割合多いだろうと思うほどです。という点から弱者だから大目に見るようにしてしまうと誰に対しても強気に出られなくなってしまうので基準にしない方が良いと考えています。
また弱者に該当する人数が増えすぎた結果、どの弱者を優先するかの競争が起こり優遇を勝ち取るために弱者同士で苦労マウント合戦が始まっているように思えます。弱者を守るのは損という風潮が強くなっている要因はこういった醜い競争を目の当たりにするからかもしれませんね。
ちなみに作中で描かれていた「弱者相手には強気に出られない」は優しいからではありません。これは単に「弱者を痛めつける快楽」より「弱者を攻撃する姿を他人に見られる恥ずかしさ」が勝っているだけで他人の目がない場所であればほとんどの人は容赦なく弱者を攻撃するはずです。そうでなければいじめやパワハラの問題はとうに根絶しているでしょう。
 
社会問題とミステリーのどちらも高い質でまとまっているのでおススメです。