花の本棚

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西尾潤 無年金者ちとせの告白

西尾潤 「無年金者ちとせの告白」
他のブロガーさんがこちらの作品を紹介していたので読んでみました

 



 
主人公のちとせが勤めるパーキングエリアは年齢不問で雇ってもらえるために従業員のほとんどが高齢者であった。そんな条件でも働き続ける高齢者たちは引きこもりの子供がいる、年金も医療保険もないなど当然のように生活が困窮する事情を抱えていた。パーキングエリアの駐車場には行き場がないために車中泊で生活する者たちも集まっており、時折車内で亡くなっているのが見つかるという状況であった。
あるとき元夫が亡くなったために保険金が入る可能性がある、と当時の保険会社の者から連絡が来る、というお話
 
困窮する高齢者たちの生活を描いたドキュメンタリー風の作品となります。帯には「老女たちによる完全犯罪」と書いてあったのですが、内容からみるとミステリー作品ではありませんでした。
高齢者というと年金が今の若い世代がもらうタイミングよりも多くもらえるから悠々自適なのではと考えられることもありますが、こういった実情の高齢者もいるということを描いています。そういった方々が日々の生活の中で何を考え、いつ体が動かなくなるかわからない不安を抱えながら生きている姿はとてもリアルでした。
また高齢者に関する社会問題についても描写があり老々介護や8050問題といったものにもフォーカスが当たっていました。このあたりも読むとためになる部分でした。
 
作中にて歳を重ねていくごとに寂しさに耐えられなくなる、という描写が多くありました。高齢になると皆がそうなる、という描き方をしていましたがおそらく違うだろうと考えています。
歳を重ねると耐え難かった物事がさらに耐えられなくなっていく、というのが正確な表現でしょう。現代の高齢者が寂しさに耐えられないのは時代背景として一人で生きるという発想が乏しかったせいと見ています。今の若い世代は一人で過ごすことが快適、あるいは慣れている人が多いので、何十年かあとになったら寂しさに強い高齢者がたくさん現れると思います。その代わりに出てくると私が予想しているのは承認欲求や自己顕示欲に飢えた高齢者です。こういった高齢者にどうやって対処していくのが良いかは私も画期的なアイディアがないのですが、おそらく上記のタイプの高齢者は多大に誇張した武勇伝を話し続けると予想されるので大げさな武勇伝を聞き続けても疲弊しないAIロボットに話し相手をさせるとかうまくいきそうな気がします。
 
想像していた内容とは違いましたが、こういった内容だとふまえてであれば楽しめると思います。