花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

凪良ゆう 滅びの前のシャングリラ

凪良ゆう 「滅びの前のシャングリラ」
本屋に平積みされていたので買ってみました。凪良さんの作品を読むのは初めてでした。
 

f:id:flower_bookmark:20201212145821j:plain


あるとき一か月後に惑星が地球に衝突するというニュースが全世界に流れる。人類が助かる術はない、と有力な機関からも断定され世界中で混乱が起きる。そんな中、東京で開催されるライブを見に行くという女子高生に日ごろは死にたいとばかり考えていた冴えない男子学生が彼女を守るために付いていくことにする。終わりが決まってしまった世界で人々は最期をどう過ごすかを描いたお話です。 
SFエンターテインメントの作品となります。本屋さんで買うとオマケでスピンオフが書かれた小冊子が付いてきます。
日頃から死にたいとずっと考えていたのに本当に死ぬ日が決まってしまったら何を考え、幸せに最期を迎えるために何をするのか、は読んでいて面白いところでした。最近コロナの影響で自殺者が急増しているというニュースもあったため、そういった情勢も踏まえて描かれた作品なのでしょうか。死を選ぶ前にこういったことに目を向けてほしいというメッセージが籠っているように感じました。
 
作中では死までもう時間がないから、という理由で死にたいと考えていた人が自分の気持ちに正直になるシーンが多くあります。
このように期間が明確に決まると普段と違う行動をするきっかけになります。とはいえ世界が滅ぶなんてことはまずないし、病気で余命僅かになることもないので機会はなかなかありません。
少々強引ですが私がやったことのある良い方法があります。それは自殺する日を決めて余命を無理やり作ってしまえば良い。これをするメリットは自分にとっての優先度が明らかになることです。残りの日を自分含め誰のために使い、何をするか?死ぬ前に絶対にやらないといけないことは何か?が驚くほどクリアに見えるようになります。最終的には死ぬ数日前になり「自殺するよりもOJT殺して捕まった方が利が大きい」と気付いたことで「余命僅かだったけど奇跡的に回復した人」に疑似的になりました。
コロナの影響により自殺者が増えているそうですが、死ぬこと自体を悪いとは言いません。ただ死ぬ前にやりたいことは何かをぜひ一度整理してもらいたいです。
 
本線の内容から外れますが、本書を読んで一つ気が付いたことがあるので書かせてもらいます。それは私がなぜ伊坂幸太郎、または彼のリスペクトの文書が嫌いか、という点です。
本書に登場する男子高校生のパートの描き方は伊坂幸太郎リスペクトな文章になっていましたが、その後の大人が出てくるパートではそのテイストがなくなっており、作品全体としては嫌悪感を特に感じませんでした。理由を考えてみて気付いたのは、思春期前後の人物を描く分には悪くないということ。つまり大人の登場人物の思考や言動を伊坂幸太郎風で描くと実年齢と精神年齢の幼さのギャップを感じるようになり嫌悪感が生まれていました。
今まで謎だった伊坂幸太郎嫌いの理由が解明できたので一歩進んだ感じがします。
 
とても楽しめたので凪良さんの他作品を読んでみようと思います。