花の本棚

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黒川博行 後妻業

黒川博行 「後妻業」
気になってはいたけどずっと後回しになっていた作品を読んでみました。
 


91歳の男性が妻に先立たれた後に69歳の女性を後妻として迎えた。後に男性は倒れて搬送されるがこれは後妻が持病の薬をすり替えて起こしたものであり、すぐに死ぬと踏んだ後妻は二人を引き合わせた結婚相談所の所長と共に彼の財産を引き出してしまう。彼女の正体は資産家を狙って後妻におさまった後に遺産を奪い取る後妻業であった。男性が亡くなると、その娘たちに対して公生証書遺言を使って後妻が遺産をすべて相続すると伝える。後妻から遺産を取り戻すために弁護士とその協力者たちが後妻業たちを調査し始める、というお話。
 
後妻に奪われた遺産を取り戻す攻防を描いた作品となります。映画にもなっています。
後妻業に関わる人々の手際の良さや周到さはお金への強い執念が感じられてリアルにその恐ろしさが伝わってきました。それと共にあざやか過ぎて良く考えているなと感心してしまいました。また遺産を取り返す側もそれだけ周到な相手をどう崩していくかというのも読んでいて面白い部分でした。後妻業は現実にも少なからずいるそうなのでその実態やどういった人が狙われるのかなどいろいろと知れたのは良かったかなと思っています。
上記の恐ろしい描写も多くあるのですが、一方で遺産を全部渡してしまう公生証書遺言を書くまでに入れ込む男性が生業になる程度にいるというのも驚きました。妻に先立たれた高齢の男性は寂しさに耐えられないから狙われると作中では説明されていましたが、それにしても実の家族をそっちのけで遺産渡すほどのめり込むのはさすがに理解が追いつきませんでした…。それくらい現在の高齢者にとって孤独は耐え難いということだけはひとまず分かりました。
 
上にも書きましたが、後妻業は孤独に耐えられない男性を狙って仕掛けるそうです。お金目当てで結婚は「玉の輿」という言葉があるように年代問わず定数いるでしょうけど、後妻業という別のものとして認識されるということは現在の高齢者の傾向から生まれたものだと言えるでしょう。
このように考えていくと、次期高齢者の年代がどんな感情に弱いかで次に出てくる高齢者向けの手口が変わるのではと考えています。私の考えでは孤独に耐えられないのは今の高齢者の年代の傾向であって、今の40後半~30代後半あたりの人たちは一人の方が良いと考える割合がかなり増えていると見ています。代わりにこの世代は承認欲求と自己顕示欲が強いので、ここを攻める手口が出てくると予想しています。具体的にどんな方法が出てくるかは今後のお楽しみですね。
世代ごとの傾向はあるとして、まず自分がどんな感情に弱いのかを把握して耐性を鍛えたり克服したりする必要がありそう、という考えになりました。私は上に挙げた感情は耐性あるのですが煽りや挑発にとても弱くて、すぐムキになって乗ってしまいます。なので乗せられると破滅につながりがちなギャンブルや煽りが文化である車の運転といったものからは意識的に遠ざかるようにしています。高齢者になる前に煽りと挑発の耐性を鍛えておきたいところですね。
 
400ページ越えの長めの作品ですが、展開が早くてサクサク読めるので気になる方は読んでみてください。