花の本棚

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詠坂雄二 5A73

詠坂雄二 「5A73」
先日アメトークで紹介されていたと知人から教えてもらった作品を読んでみました。

 



 
二人の刑事の元に不審な連続自殺の捜査依頼が来ていた。遺体には「暃」という文字が描かれたタトゥーシールが貼られていたのだが、この文字はJISコード上にはあるがで読み方が存在しない幽霊文字と呼ばれるものであった。現場の状況からそれぞれの死者が自殺であるのは疑いの余地がないため、自殺を示唆した人物がいるのではと考えこの幽霊文字について調査を始める、というお話。
 
幽霊文字をテーマにした作品になります。
物語としては幽霊文字を捜査する刑事のパートと自殺した人々が幽霊文字にどう出会い、自殺するまでの回想を描いたパートを交えながら進行していきます。刑事パートの方では幽霊文字に関する話をメインにしており、回想パートでは幽霊文字をどう読むかの解釈をメインに描いています。幽霊文字というネタからここまで話を広げられるのは凄いと思わず感心してしまいました。
また作中には捜査の一環で専門家から文字に関連する知識を色々と聞くシーンがありました。幽霊文字が生まれる経緯を始め文字の形の成り立ちなど、へぇーとなるような知見が多くあって面白いです。「人の夢と書いて儚い」というロマンチストな解釈は文字の生まれから見ると間違っている、という説明を読んでこういうのは文字通り「言葉遊び」なのだろう、と納得してしまいました。
結末に関しては好みが分かれそうです。ホラー系の作品としてみるのであればこういうのもアリだろうと思います。ミステリーとして読んでしまうと納得いかない人が多く出てきそうなので、この作品はホラー系として読むのがいいと思います。
 
作中にてクイズと大喜利の違いについて解説しているシーンがありました。それによるとクイズは先駆けて用意された正解を当てた人が勝つもので、大喜利は正解が最初から無くその場で一番ふさわしい答えを出した人が勝つ、というものでした。
この解説は個人的にかなり面白いと思いました。社会人が何か議論したり問題解決したりするときはクイズではなく大喜利になるでしょう。私が注目したいのは「その場で」一番ふさわしい回答が選ばれるという点です。仕事をしていると議論の場で何を言わなかったのに、結果を見てから「こうする方が良かった」と言ってくる人がいます。言われると腹が立つ言動ですが、上の大喜利の解説と照らし合わせるとこの回答は場が違うので先の議論の場での回答とみなさなくて良いことになります。そう考えると後出しで文句を言ったり、実は私は最初から気づいていたアピールを受けたりしてもこれは別の場の回答と割り切って受け流しやすくなって良いのではと思いました。
 
作風がかなり独特で合う/合わないがありそうな作品でしたので、気になる方は「物は試し」の姿勢で読んでみていただくのが良いでしょう。