花の本棚

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逸木裕 銀色の国

逸木裕 「銀色の国」
逸木さんの文庫本が新しく出ていたので買ってみました。

 



 
主人公はNPOで自殺対策に取り組む男性。彼がかつて対応して立ち直ったと見ていた男性が自殺したと連絡がある。遺族によると彼は自殺前にVRゲームに没頭していたと聞き、友人のゲームクリエイターと彼の死について調査を始める。彼のVR機器を調べてみるとそこには非公式ゲームが消された痕跡があり、彼が没頭していたのは裏で流通する自殺を幇助するVRゲームだったのではと推測し始める。
一方で浪人生である女性はTwitterにて自殺をほのめかして周囲の気を引く鬱葱とした日々を送っていた。あるときフォロワーから自助グループが運営するVRゲーム「銀色の国」に参加してみないかと誘われる、というお話。
 
自殺をテーマにした作品となります。
メインは主人公側である自殺から救いたい側の視点で描かれており、その合間に自殺したい/させたい人々の視点を見せながら物語が進んでいきます。多くの人に寄り添って救いたいけど直接は何もできないことに悩む主人公をはじめ、登場人物たちの心理描写が非常にリアルで読み応えがありました。また自殺者とどう向き合うかについて作中にての人物たちが持ついろいろな考え方が描かれているのも見所の一つになるかと思います。これに関しては正しい考えというものはないので、こういった考え方もあるのだなと新しい視点が得られて私としては良かったと考えています。
あくまで主題は上記の部分となるため、ミステリーの方は物語を面白くするために添えてあるという程度の認識で良いです。
 
自殺幇助のVRゲーム世界がもしあったとしたら、というのが本作のテーマなので私も考えてみました。海外の事情は知らないのでとりあえずは日本に限定して考えました。
まず単純に需要があるかという視点で見ると、需要は高いと思います。なぜかというと現実がつらいという言動が本気なのか周囲の気を引きたくて言っているのか判定するために使えるのではと私は考えています。作中の主人公は多くの人を救いたいと奮闘していましたが、あくまでフィクションであり現実世界で考えると救うために動くこともままならない状況になりやすいと見ています。その最たる理由はその言動が本気なのかが外からでは区別がつかないからです。そこでこのVR世界を使って死にたい度を判別してみればいいという考えです。そうすることで本当に救わなくてはならない人の選定が出来るようになるので救える確率も大幅に上がることでしょう。
 
作中の登場人物の一人が「自殺は精神の寿命」と考えていると話すシーンがありました。この考え方は肉体と精神どちらの病気も平等と捉えている非常に良い考えだと思いました。
まだ治療法が見つかっていない難病もあれば、生活習慣病のように自業自得でしょう?と認識されてしまう病気もある、というのが肉体の病気の現状だと見ています。また治療の末に亡くなってしまったからといって担当医を責めたり、病気になったのは誰のせいかと身内で揉めたりすることも少ないでしょう。これらの考え方を精神の病気にも適用して、言い方悪いですが自殺を寿命や病死と捉えて割り切りやすくしていく方が現代には合っていると私は考えています。仮に二つ病種を同等になったとしたら何が問題かと考えると、精神病んでいるアピールで周囲の気を引く行為と中年男性たちが大好きな不健康自慢大会が同じになってしまうので嫌だという方がいそうなくらいですかね。
 
独特な世界観が面白い作品なので気になる方は是非読んでみてください。