花の本棚

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逸木裕 電気じかけのクジラは歌う

逸木裕 「電気じかけのクジラは歌う」
逸木さんの作品で気になる内容のものを見つけたので読んでみました。

 



 
人工知能アプリに好みの曲をインプットすることで自分好みの曲を作ってくれるようになったために作曲家がいなくなった近未来が舞台。主人公は元作曲家でかつてはバンドを組んでいた時期もあったが、現在はその作曲アプリの開発に携わっている。あるときバンドメンバーの中でも作曲の天才と称されていた人物が自殺し、彼が作ったであろう曲の断片が送られてきた。彼が何のために曲を送ってきたのかを探ろうにも、かつての仲間からは裏切り者扱いされているため誰も協力してくれなかった。そんな中で死んだ彼を慕っていたピアニストをしている従妹と出会う、というお話。
 
AIと創作活動をテーマにしたミステリー風のSF作品です。
AIの作った曲によって高い満足が得られるようになった世界にて、作曲を止めてしまった主人公とそれでも作曲を続けていた自殺した友人をめぐっての物語となっています。作曲する意味は本当になくなってしまったのか、それでも作曲続けた友人は作曲を止めた自分になぜ曲を送ってきたのかと悩み続ける主人公の姿はミステリーと人間模様の両方が入り混じっていてとても読み応えがありました。
SFの作品なのでAIが人間以上に創作できるようになったとしたらどんな世界になるか、も上手く描かれています。作曲者だけでなく曲を聴く側の人々の変化や新しく生まれた職業など世の中にどんな変化が出てくるのかを想像しながら楽しめるのも本作の見所になるでしょう。
AIによる創作活動といえば去年ハイレベルなイラストが描けるAIアプリが出てきて話題になっていました。本作を読みながらあらためて考えてみると、AIが人間のように作品を作り出す時代もそう遠くはないのは間違いないだろうと思いました。本作では作曲家がいなくなってしまうという後ろ暗い事態を引き起こしていましたが、それが現れたことで誕生する新しい職業やジャンルがありそうで私としてはむしろ楽しみだなと考えてしましました。
 
作中の作曲AIが本当に実現したらどうなるか?というのは色々な想像が出来て非常に面白いです。本当にAIが誕生した界隈での仕事はなくなってしまうのでしょうか?
とりあえず作曲の分野に限定して考えてみたのですが、作曲家がいなくなるほどの影響力はないと思います。聴く人々はどんな人が作ったか、つまりブランドを必ず意識するからです。特に現代では生み出した過程で違法な手段を使っていたり、プライベートなどで社会的に許されないアクションをしていたりするとすぐにブランドが失墜するのでこの傾向が強いと言えます。AIプログラムというのはどういったインプットをもとに作られたかは外からは見えないため、例えば違法な曲をインプットに使っているかどうかは不透明になります。となるとブランドを重要視する大企業であればそんな出所の見えない曲を使うことはリスクに繋がるので避けるでしょう。
その一方で「とにかく安く曲を作って欲しい」という需要に対してはAI作曲がたくさん使われると思います。これはイラスト界隈でいうイラスト屋が出てきたときにも起きた流れであり、それによってイラストレーターさんが消え去ってもいないので不安要素にはならないと見て良いでしょう。
 
AI作曲ができたとしたら、それによって発生する新しい職業やジャンルが現れるのがむしろ私は楽しみです。作中ではジャズバーにてAIで作曲した曲を渡すとそれをその場で生演奏してくれる弾き師という職業が出てきていました、とてもよさそうですよね。自分はベースを弾いて他の楽器とボーカルはAIにやってもらって一人ロックバンド、みたいなのも実現したら面白いんじゃないでしょうか。
AIが発展したら起こるのはこんな感じでこの部分だけできるまたはやりたいというときにAIでそこを補うという使い方が広まるのではと考えています。そうなると一点特化タイプの人が輝く可能性が高まるので、面白い世の中になるんじゃないかなと思います。
 
SF小説としてとても面白く、AIによる創作という話題性の高い題材なのでぜひ読んでみてください。