花の本棚

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千早茜 グリフィスの傷

千早茜 「グリフィスの傷」
千早さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 


傷痕をテーマにした短編集となります。
内容は体や心に傷痕を持つ人とその周囲の者たちがその傷をどう考えるかを各章で描写しているというものです。
大きな傷跡ができたことでいじめから脱した人、誹謗中傷を送った相手からリストカットした写真を送り返された女性、など傷を負った本人だけでなく負わせた人、傷痕を見てしまった人など視点になる人物の立場も様々な内容となっています。
本作の見所は心理描写の綺麗さにあります。傷から立ち直るというオーソドックスな描写だけでなく傷を負ったことで気づけたことや得たこともあるという様々な面からの描写が丁寧に描かれています。上に書いたように傷に対して立場の違う人物の心理描写も描かれているため、今まで考えもしなかった視点が見えたので非常にためになりました。
 
ある章にてSNSで誹謗中傷を送ってきた相手にリストカットして流血している画像を送りつける女性が登場していました。どれくらい心が傷ついたかを分かりやすく伝えるためにこういったことをしていた、という説明がされていました。
リストカットの画像を送ることはさておいて、どれくらい傷ついたかなど自身の心情を見える形で表すのは非常に良い行動だと思います。これが上手く出来ると言ってくれなきゃ分からない系の言い訳をしがちな人を牽制出来るという点でも非常に有用でしょう。
ただこれには一つ問題がありまして、正の感情は表す方法が豊富なのに対して負の感情の度合いを表す方法はあまりなく暴力的な物事に変換するくらいしかないという点です。上記の例にあるリストカットは傷の数や深さで傷ついた度合いを表現できるのでかなり分かりやすいでしょう。負の感情が出た時のもっと一般的な行動というと暴飲暴食や不眠あたりになるのですが、異常飲食した量とか睡眠時間を提示してもそれほど大きなインパクトにはならない気がしています。それこそ感情の対象者の顔写真を切り刻んだり燃やしたりしている動画くらいのインパクトが無いと伝わらない気がします。負の感情を表すいい方法が見つかれば通り魔殺人のような事件が起きる前にストレス発散できそうなのですが、難しいですね。
ちなみに私は職場で理不尽な目に合ったときに「具体的にどれくらい怒りが湧いたか」を同僚に展開するようにしています。先日ある出来事の怒り度合いを「Aさんに死んでもらいたい」と表現したところ、仕事の関係者にそこまでの殺意が湧くのは異常だと指摘されてしまい驚きました。殺意が湧くという異常行動が出てしまうレベルの攻撃を仕事場でやってのける先輩方も異常なので、お互いさまと言ったところでしょうか。私もこういった具合なので何かいい表現方法があれば教えていただけると助かります。
 
心理描写の描き方が非常にきれいな内容ですので、そういった作品が好きな方にはおすすめです。