花の本棚

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夕木春央 方舟

夕木春央 「方舟」
コミュニティでも話題になっていた作品を読んでみました。

 



 
主人公たちは山奥にある地下施設「方舟」で一晩明かすことになった。翌朝地震が発生したことで出入り口が岩で塞がってしまい、地下から水が施設内に流れ込み始めてしまう。脱出のためには岩をどかす装置を動かす必要があるが、それを動かした者は施設から出られない仕掛けになっているため誰かを見捨てないといけない状況に陥る。他の脱出方法を探していたところメンバーの一人が殺害されているのが発見され、犯人を見つけて装置を操作させようという目論見で真相を探り始めるというお話
 
クローズドサークル型のミステリー作品となります。
本作を一言で言うとラストのインパクトにすべてがかかっている作品です。300ページほどの内容があるのですが、描写のすべてがそのために用意されていると考えて良いでしょう。それだけにラストのインパクトはすごくて、今まで読んできた内容が一変するようなものになっていて凄まじいです。
ただラスト以外ははっきり言って弱い。ストーリー、キャラの描写、起きた事件の真相や動機、どれを取っても面白いとは思いませんでした。というよりもラストを意識しすぎて全部描写をカットしているように見えました。「方舟」にまつわる背景、主人公たちが来ることになった背景、犯行の動機につながりそうな人物たちの関係性、など300ページある作品でありながらどれも希薄で描写がほとんどありません。探偵役をしている人物がなぜその役割におさまっているのかすら私にはよくわかりませんでした。
ということから人には薦めません。私が一点特化型の作品を嫌っていることと、ラストが好みじゃなかったら本作買った意味がほぼなくなってしまうので申し訳なくなってしまいます。しかもラストの部分なので迂闊に説明することもできませんしね。何年か後にこの作品を思い返したときに綾辻行人みたいな「当時は物珍しさで持ち上がったがそれほどでもない作品」になってないか心配です。
 
幸い一点特化した部分が面白いので読まなくていいとは言いませんがお勧めはしません。あらすじを読んで結末がどうしても気になった方は買ってみて良いと思います。