花の本棚

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長江俊和 恋愛禁止

長江俊和 「恋愛禁止」
長江さんの新しい文庫本が出ていたので買ってみました。

 



 
主人公の女性は高校生の頃から交際していた当時の担任に別れた後も付きまとわれた末に殺害してしまう。逮捕を覚悟していたが警察どころか彼が殺害されたことすらニュースなどに流れてくることはなかった。その後彼女は別の男性と結婚して子供を授かり幸せに暮らしていたのだが、かつての殺害のことを知っているという男性から連絡を受ける。彼はかつての事件で遺体を隠ぺいしたと語り、その見返りとして自分に愛を向けるように要求してくる、というお話。
 
恋愛をテーマにしたホラー作品となります。
登場人物たちの愛情表現の仕方が歪んだものばかりで、そういった人々が起こす行動の恐ろしさをリアルに描いています。DV、ストーカー、脅迫などといった異常行動で愛情表現する男性たちが持つ背景や心理描写がまた生々しくて読んでいると嫌悪感を持たずにはいられませんでした。作中では男性から女性への愛情が主に描かれているため、女性が読む場合は実体験などから嫌な気分になるかもしれませんので要注意です。
他にも魅力がある女性がトラブルや不幸にみまわれやすい理由など恋愛にまつわる話が多く書かれていて、こちらも読んでいて面白い部分でした。
 
作中にて頼まれていないことをやって恩を売り、見返りを求めるという男性を主人公が嫌悪するというシーンがありました。
「やってあげたのに→頼んだ覚えはない」というパターンのトラブルは異性間でなくても良くあることですが、この状況が起きるとやっていた側が声を上げたことに批難が向くのが私は納得いきません。
まず現代の社会人は「言われたことだけやるのではダメ」と言われており、状況を見て頼まれてないこともやることが求められています。こういった要求が常にあるのに対して都合が悪くなった時に「頼んだ覚えはない」という反論が出るのであれば、最初の要求は取り下げるべきです。
社会人の話であればこれだけで終わりますが、上記のような異性間でのケースになるともう一つ問題が出てきて、それは受ける側は強い傲慢さを持っていることです。やってもらう側は「私は無償で奉仕を受ける立場にいる」という傲慢さがないとこの話は成り立たず、特に魅力のある人物であればそれを提供してくれる異性が大勢いることでさらに傲慢さが高まるでしょう。
作中では魅力のある女性は男性からそういったアプローチを無数に受けるために不幸になりやすいと書いてありましたので、奉仕をもらえる快楽を振り切って断る毅然さを魅力ある女性は持つ必要があるのだろうという考えに落ち着きました。
 
サクッと読める割に内容は深く出来ているので、気になる方は読んでみてください。