花の本棚

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佐野広実 シャドウワーク

佐野広実 「シャドウワーク
佐野さんの作品で新しめのものを見つけたので読んでみました。
 


江の島の近くにDV被害から逃れてきた女性たちが共同生活するシェルターがあった。そこではアルバイトの斡旋やレクレーションなどDVで壊されてしまった心身の強さを取り戻すための取り組みがあり、立ち直って施設を後にする女性も多くいた。しかしそこには定期的にメンバー全員で共謀して別のシェルターメンバーの夫を殺害するというルールが存在し、今まで出ていった女性たちの夫も他のシェルターのメンバーたちが全員殺害していた。
ある時、夫を殺害してもらって出ていった女性の一人が不審死をしたことで警察がシェルターの存在に気付いてしまう、というお話。
 
DVをテーマにした社会問題系の作品となります。
DV被害者が暴力に怯えることなく生きられるようになるには加害者を殺害するしかない、という考えのもとに活動するシェルターメンバーの狂気が不気味なほどリアルに描かれていました。作中に描かれている女性たちの心理状態は、今後の人生を平穏に過ごせるようになる手段は確かにそれしかないのかもしれない、と思ってしまうほど凄惨なものでした。こういった内容なので作品全体はダークな雰囲気になっています。
また上記の殺害の部分は別として、DV被害者と加害者がどういったものなのかについても現代ではどうなっているのかが詳しく描かれています。近年離婚率の高さからもDVは今の日本では見逃せない問題なので、こちらも見所の一つになると思います。
 
本作にてDVの加害者である夫が妻の方が誤解していると言い張るシーンが何度かありました。私はパワハラする人については詳しいですがDVする人のことは門外漢なので、そんな私でも推測ができる別の視点を思いついたのでお話したいと思います。
DV被害が誤解であるケースはほとんど無いと考えています。そう考える理由は誤解を解くソリューション事業が一つも世に出ていないからです。去年のワールドカップの日本対スペインでVARが際どい判定を出したのが話題になりましたよね。あれは審判が判定を誤る可能性があり、それによって困る人が一定数以上いるから開発されたものです。もっと近い例を出すと痴漢の判定のために電車の中にカメラが設置されたり、交通事故で過失割合を判定するためにドラレコが普及したりと誤判定を受けて困る人が一定数以上いるとそれを助けるサービスが作られます。対してDVという何十年も前から争い続けているテーマについて誤判定を助けるソリューションサービスがないということは、誤解だと主張する数に対してのDVが本当は誤解だった件数は採算が取れるほどは無いと見ていいでしょう。技術的にも難しくないですし、いくつもの企業が過去に試算して需要なしと判断していったのではないかなと思っています。
以上のことから、DVが誤解である可能性はほとんど無いだろうという結論になりました。

全体的にダークな雰囲気となっているため、そういった作風を楽しめる方にはおススメです。