長江俊和 「出版禁止 いやしの村滞在記」
今回はコミュニティで教えてもらった作品です。
主人公のルポライターは「いやし村」と呼ばれる施設を取材しに来ていた。この施設は呪いによって人を殺害する集団であるとネット上では噂されていたため、その真相を探るのが目的であった。施設の人々は誰かに裏切られた過去の心の傷を持ってはいるものの、人々からそんな素振りは感じられなかった。しかしその周辺の村に伝わる呪いの儀式で人の恨みを集めていることが判明し、呪いの儀式のための施設なのではと疑い始める、というお話。
ノンフィクション風に書かれたミステリー作品となります。
ミステリーとして非常に面白い作品でした。ミステリーの主になる部分である例の呪いは本当にあるのか?主人公は何を目的に取材に来たのか?が上手く隠されていて、それを考えながら楽しむことが出来ます。
また最後まで読むとこれまでの流れを覆すような驚きの展開がありました。一度読み切ってから再読すると違った面白さがあるため帯に書かれた「二度読み必至」は誇張ではありませんでした。
ミステリー以外にも呪いの発祥についての諸説などちょっとためになる部分もありますのでそういった点も楽しめる要素になっていると思います。
作中の呪いに関する解説の中に「呪いは弱者が強者に対抗するために作られた」という説明がありました。
これは諸説の一つらしいのですが、私としては支持できる説だと思っています。世間に伝わっている怪談や古来の妖怪の話でその正体として出てくるのが女性や老人、子供といった弱者が多いという点もそのせいなのかなと考えています。また現実的なアプローチで見ると正攻法で戦える場合にはそもそも呪いを使う必要などないので、頼る人は弱い立場の人に必然と限られます。
最近のガソリンを使った放火事件もそうですが昔と違って人を殺す道具はすぐ手に入る時代ですので、わざわざ呪いを頼らずとも誰でも怨みを晴らすことが出来る時代だと私は思っています。そういった点からも不用意に人から強い怨みを買うようなことはすべきではないと考えています。
ミステリー作品が好きな方は是非読んでみて欲しい作品です。
またこちらが今年最後の書評となります。
来年もまたよろしくお願いします、よいお年をお迎えください。