花の本棚

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逸木裕 祝祭の子

逸木裕 「祝祭の子」
あらすじを見て面白そうだったので読んでみました。

 



 
14年前に宗教団体の施設内で大量殺人事件が発生した。事件を起こした宗教団体の長は洗脳して殺人の訓練を施した子供たちに信者を殺害させ、自らは姿を消した。そういった背景だったので子供たちは罪に問われなかったが世間からは殺人鬼と呼ばれてまともな生活が出来なかった。
あるとき姿を消した長が遺体で発見されたと知らされる。それと同時に当時の子供たちの現住所と名前がネット上に晒され、戦闘訓練を積んでいると思われる何者かに襲撃される。このままでは危険であるため当時の子供たちが集まりこの危機を乗り切るというお話。
 
贖罪をテーマにした作品となります。
罪に問われなかったとはいえ被害者からみたら犯罪者と変わらないときどう償えば良いのかと悩む登場人物たちの心理描写がリアルに描かれています。登場する仲間たちは各々違う考え方をしているので当時の出来事をどう捉えるか、誰の責任なのか、そもそも罪ではないのに悩む必要があるのか等といった点への色々な考え方が描かれているのが見所です。どの考え方が正しいか、というのは無いと思うので自分だったらどう考えるかなと想像しながら読むと楽しめると思います。
本作のもう一つの見所は戦闘シーンの描き方が上手いことです。登場人物たちは戦闘訓練しているという設定であるためか、ただ血生臭いだけではなく映画のアクションシーンを見ているような面白さがありました。アクションだけでなく戦闘中の心理描写、駆け引きも細かく描かれているのでそういった部分も読んでいて面白かったです。
 
作中にて暴力で解決するのは間違っている、という主張が何度かありました。実はここ最近読んだいくつかの作品の中で暴力をよしとしない主張が出てきていました。
日本に限定するとしたら暴力は無くさない方が良いと考えています。理由は暴力を無くすと現在暴力を振るっている人たちの暴行が加速すると予想されるからです。暴力を振るっている人たちがなぜ躊躇いなく暴行できるのかというと、自分が暴力を振るわれないと高をくくっているからです。もしこれで暴力のない世の中が来たとしたら、この類の人々はより堂々と暴行するでしょう。ゆえに暴力がなくなったとしてもその時点で暴力に分類されていない別の行為を暴行として受けるようになるだけで、今暴力に苦しんでいる人々は救われないと考えています。ちなみに上で「日本に限定すると」と書いたのは海外の場合は一般市民でもピストルなどを持っている可能性があるので暴力の反撃がないと認識されにくいからです。
私自身の経験から考えても、人間性が乱暴な人よりも相手の強さによって態度を変える狡猾な人たちから攻撃された回数の方が圧倒的に多いです。なので世間と私のローカルどちらにおいても平和を目指す手段として暴力の撲滅はまったく効果がないと断言します。それだったら前に話題になった「ブラジル政府がバイクに乗った強盗の殺害を合法化した」というような明確な線引きによる暴力の許可を進めた方がはるかに効果を期待できます。
 
映画を見ているような感覚で楽しめるのでアクション系が好きな人におススメです。