花の本棚

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浅ノ宮遼,眞庵 情無連盟の殺人

浅ノ宮遼,眞庵 「情無連盟の殺人」
あらすじを見て面白そうだったので読んでみました。

 



 
主人公の男性は感情が失われていく病気に罹っていると判明した。まだ初期の段階ではあるがいずれ何に対しても最低限生きていける程度にしか行動しないようになっていく「情無」と呼ばれる状態になると見られている。そんなある日、この病気に罹った患者だけで共同生活をする「情無連盟」という団体から仲間に入るように勧誘される。話を聞くためにその施設に泊まりに来た日の夜にメンバーの一人が殺害されてしまう。「情無」たちには殺人をするために必要な感情がないためメンバーたちに犯行は不可能と見られていたが、のちの調べによって外部犯の可能性が否定されメンバーの誰かが犯人であると判明する、というお話。
 
SF風のミステリー作品となります。
設定のつくり込みとそれをミステリーとして上手く使った展開が非常に面白い作品でした。事件の真相の内容も特有の設定によって出来たものとなるため、ほかの作品とは違った驚きがありました。また本作特有である感情が無くなる病気についての解説は細かいところまで分かりやすく書かれているのでそれを読んでいるだけでも面白い。共著のお二人はどちらも医学部卒ということもあってこのあたりの説明はうまいと思いました。
ただ推理をしようとすると特殊な設定下であるため本作の設定に沿う必要もあって難易度が高いです。なのでそういった作品だと割り切って楽しみながら読むのが良いと思います。
ミステリー以外にも感情は生きる上でどのように役立っているのか?現代人にとって感情は無い方が効率的に生きられるのか?といったほかの作品にはなかなか無い問いかけがされているため、考えを巡らせたりできてこちらも面白い部分だと個人的には思いました。 
 
作中にて感情が無くなったら人としての幸せがなくなるのか?という話がたびたび出ていました。情無連盟メンバーの主張によると感情は動物として生き残るために人間に備わっただけであり、死ぬ危機が身近にほとんどない現代人にとって感情はストレスの原因でしかないと話していました。
作中の主張を一通り読んで考えたのは、現代人には感情をコントロールする訓練が足りないのだろうということです。上に書いたように感情によって危機を察知したり、回避行動を取ったりすることで生き残るのだとしたら、感情を上手く使えない種は絶滅するのが自然の摂理です。つまり上手くコントロールできない努力不足の人間でも生き残れる時代になったという話になってきます。そういった人々が効率よく生きたかったら感情を無くすのがいい、という話であれば私は賛成です。自分で制御しきれないものを捨てていくのは悪いことではありません。あくまで感情が無くなるのはこの作品のSFでしかないので、感情と上手く付き合うために訓練しておくのが現代では大事なのだろうと思います。
 
独自の設定が面白い作品でしたので、気になる方は読んでみてください。