花の本棚

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矢樹純 残星を抱く

矢樹純 「残星を抱く」
矢樹さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 


主人公の女性は複数人で男性を暴行している現場を目撃して自宅まで逃げ帰ってきた。刑事である夫に相談しようか躊躇っていると、ポストに先の件を示唆する脅迫状が届いていた。その後二通目の脅迫状が来た際に、夫が自殺に見せかけて殺害されてしまう。同僚の話から夫は非番の時に20年前に彼女の父が死亡した事故を独自に調べていたと判明する、というお話。
 
ミステリー系の作品となります。検察官、探偵、刺青を入れた男など接触してくる人物がどれも怪しく誰が本当の味方なのか?と常にハラハラしながら楽しめる作品です。終盤には驚きの展開がいくつもあって最後まで飽きずに読めました。真相を考えながら読んでも良いですし、特に考えずに読んでも楽しめると思います。
本作ではミステリー以外にも力が入っている部分がありまして、それは戦闘と逃走シーンです。主人公の女性が元陸上部かつ柔道経験者と設定されているために追跡者から逃走する、遭遇して戦うシーンが何度かあって描写が映画のような迫力で面白いです。この部分も見所の一つとなっていると思います。
 
作中にて主人公の女性が双子の兄が死産し自分が産まれたせいで周りに迷惑をかけている、と悩んでいるシーンがありました。自分が生きている意味を悩むのは誰しもあることだとは思いますが、子供の時ならまだしも大人になってから悩むことではないと私は考えています。
子供というのは嫌な言い方をすると親などの保護者に生かされている状態です。その状態の時は自分の命を自由に扱えない期間なので「自分が生きているせいで」と悩むのはよくある話なので問題ないと思います。大人になったら自分の命をどうするかは自分で決められるので「産まれたせいで」と考えたところで意味があるとは思えません。本気で考えるとしてもそれに対してのアクションは今から挽回する方法を考えるか、損を増やさないために自殺するかの二択しかないので速やかに選ぶだけです。残念なことですが大人の命は子供と違って将来性も低く死んでしまって問題ないくらい軽いのが実情です。そのため生きる気力を保ち続けるにはそこそこの強い意志が必要となります。おそらく家庭や子を持った方がいいと言われるのはこの意志を持ち続けるためというのもあるでしょう。
 
作中にて夫が非番の日に何かしているのを主人公が疑問視するシーンにて、夫は「私を疑っているのか?」と言って主人公を失望させるというやり取りがありました。
日常生活でも問い詰められたりしたときにこの言葉を言う人がいますがこれは一種の脅しだと考えています。上記のシーンだと「私を疑うあなたに非がある」というニュアンスで言っていることになります。やましいことをしてないなら素直に答えるだけですので、この言葉が出てくる時点で何か疑われることをしているのは明白です。その上で相手側を悪人に仕立て上げようという魂胆が見えるため、卑劣な人であることは明らかです。似た言葉で「私がそんなやましいこと考えていると思っているのか?」などもありますので、この類の言葉を発する人がいたら即刻縁を切るようにしています。
 
矢樹さんの作品は面白いものが多いので気になる方は読んでみてください。