花の本棚

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宇佐美まこと 黒鳥の湖

宇佐美まこと 「黒鳥の湖」
宇佐美さんのわりと最近の作品を読んでみました。
 

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主人公は不動産会社の社長。世間では誘拐した女性の遺品や体の一部を家族に送り付ける事件が話題となっていたが、この手口はかつて彼が興信所に務めていた時に依頼された犯人捜しで依頼者から聞いた犯人の手口と同じであった。しかも主人公は自分の叔父をその犯人にでっち上げ、依頼人に復讐殺害を誘導することで遺産を手にして結婚を許された過去があった。
それを境に主人公の娘が非行に走るようになり彼の家庭は崩壊するのみならず、娘は行方知れずとなってしまうというお話。
 
本作は「過去の報い」をテーマにした作品です。
宇佐美さんの作品は心理描写が上手いため、悪行によって幸せを手に入れた主人公がその因果応報を受けている姿や心理描写はとても生々しくてリアルでした。人としての根本的な考え方からしてこうも差があるものなのかと驚かされました。
反面、少々後ろめたい程度では済まない過去を持った人物が多く登場するため読んでいると気分を害する方もいそうでした。
ミステリーとして見ても質が高いです。過去の報いという題材も上手く使われているため、こちらを目的として読んでみても良いと思います。
 
主人公の娘が両親への当て付けに自分を傷つける行動をするようになる、というシーンがありました。
これは自分が弱っていくところを見せつけることで周囲の気を引こう、という行動らしいのですが私には理解できない。ですが理解できないなりにどうしてそれをするのか考えてみたところ、これは脅しの一種だという考えになりました。つまり「取り返しのつかない状態に私がなってしまうぞ」と相手に圧をかけることでアクションを強いて自分が周囲を支配しているような高揚感を得るのが目的ということです。
さらに言うと助けてもらえることまでが本人にとっては織り込み済みの流れなので、当人は周囲が助けに来て当然と傲慢な考えを持っていることが分かります。
悲劇に会っているように振舞う割に自分で何もしようとしない人は何人か見たことがありますが、こう考えると浅ましい打算がよく見えますね。
 
主人公が娘の非行について周囲に相談したところ、非行して学校に呼び出されるのはどの家の子供もやると言われて納得するシーンがありました。
非行するのが普通なわけがないのになぜ納得したのだ、と驚きましたがこういった期待した答えが貰えるまでひたすら相談しまくる人は現実にもいます。行動は決まったけど勇気が出ないのなら分かるのですが、賛同者がいる意見にしようと努力するのは意味があるとは思えない。
いろいろ考えてみたのですが、腑に落ちるところまで進む仮説が立ちませんでした。一番有力だったのは承認欲求だったのですが、反する意見が多くあっても賛同者が一人居ればそれに縋る、という流れなので何だか違うような気がしました。もし意見を思いついた方がいたらコメントもらえたら嬉しいです。
 
ダークな雰囲気なので内容は重いですが、考えさせられる部分が多くある良い作品でした。