千早茜 「ひきなみ」
千早さんの作品が文庫化されていたので買ってみました。
主人公の少女は祖父母が住む島に預けられることになった。よそ者として疎まれ、からかわれているところを同級生の少女に救われてから一緒とともに行動するようになった。ある時、島に逃げ込んできた脱獄犯の男性が同級生を連れて島から逃亡してしまう。自分を置いて島からいなくなってしまったことにショックを受け、脱獄犯を彼女と一緒にかくまったとして島を離れることになる。
その後大人になり、職場で理不尽な目に会うたびに彼女のことを思い出していた。あるとき仕事の取材相手を探していると、彼女の姿が掲載されているホームページを発見する、というお話。
女性としての役割をテーマにした作品となります。
女性として産まれたというだけで期待される役割、望んでもいないその役割によって起こる理不尽を描いています。舞台設定を見る限りでは現代よりももう十数年ほど前の時代を描いているようです。
本作の見所は心理描写の上手さで、かつての男尊女卑な社会において女性が受ける理不尽な出来事をリアルに書かれています。そういった出来事にあったとき、どのように振舞い、受け入れるかと悩む姿も非常に生々しいものでした。
なお、主人公が女性ということもあって登場する悪役たちは全員男性でした。なので男性が読むと耳が痛い話もあるでしょうけど、そういった作風と割り切って読めば男性側からは見えない女性たちの悩みを垣間見ることが出来るので良い内容だと思います。
作中にて、主人公の父親が機嫌の波が激しく、母親と自分がご機嫌をうかがいながら生きないといけないのが理不尽だと語っているシーンがありました。家族だけでなく、職場や友人のグループなどにおいても特定の一人の機嫌を損ねないように気を遣わないといけない集団はいくつも見たことがあります。
実をいうと私は人の機嫌を取るのが大の苦手です。お世辞やゴマすりが一切できないために先輩に恥をかかせて激昂させたことが今の会社で何度もあります。そういった状態なので、上記のような「機嫌を取らないといけない」は感じたことがないため良く分かりません。その代わり私がよくやる(やってしまう)のは「ここでこの偉そうな人に恥かかせたら面白いかな」と考えて発言することです。その場は地獄と化しますが、数日後に「あそこでアレ言ったの良かった」というコメントもらえることが多いです。つまるところ「一人が恥かいて自分が責められるけど、その場にいた他の人たちが内心笑ってくれたらトータルでプラス」と損得勘定をして発言しているのが本音です。
機嫌を取る能力がないのですから、こういった方法で周囲の人たちに一目置いてもらえたら良いな、という私なりの処世術なのかもしれませんね。
心理描写が上手い作品ですので、そういった作風が好きな方にはおススメです。