花の本棚

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小林由香 まだ人を殺していません

小林由香 「まだ人を殺していません」
小林さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 

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既に他界している姉の夫が猟奇殺人の犯人として逮捕され、その息子 良世を引き取ることとなった。自身もかつて不注意によって娘を交通事故で亡くしており、世間で「悪魔の子」とまで言われてしまっている良世をきちんと育てられるか不安を覚えていた。良世はグロテスクなテーマの絵や生き物を殺害するといった試し行動をする傾向が見られ、どのように対応するのが親として正しいか分からずに苦悩する日々となる、というお話。
 
親子の愛情をテーマにした作品です。内容としてはドキュメンタリー系になっており、子を亡くして親としての自信がない女性と父から愛情をもらえず子供としての振る舞いに不安を持つ息子が親子の絆を育んでいく姿は感動的でした。
また息子が様々な試し行動をして主人公女性の愛情を確かめようとするシーンがあります。殺人犯の子という設定のためその内容が過激な描写となっていて、読むのが少々辛いシーンもありました。終盤のシーンでそれらの真意が明らかになるのですが、心に暗い部分があると愛情を表現するのってこれほど難しいものなのだなと痛感しました。近頃子供だけでなく大人についても愛着障害という言葉を聞くようになってきましたが、理解が浸透するにはまだまだ労力が必要な気がしました。
 
作中では愛着障害と思われる少年が出て来て、主人公に対して過激な試し行動をするシーンが何度もありました。またネグレクトな家庭で育ち愛着障害を持ったまま大人になった人がそれなりにいるという話もかつて話題になりました。
私は子がいないので大人限定で話しますが、試し行動が嫌いです。理由は試し行動によって対等な関係でないと露呈するからです。試し行動が起きると無茶な要求をする側と受け入れを迫られる側になります。試し行動なので要求する側は相手が受け入れてくれる算段で行動していることになり、従って当然な相手だと考えていることになります。
親子であれば最初から立場が違うので受け入れられるのでしょうけど、友人やパートナーなど対等であるべき関係で試し行動をする人を私は認められません。
試し行動をどうしてもやりたいのであれば、パートナーにうんと年上の異性を選ぶなど背景に罪悪感を持つ相手を選んで実行すれば良い。これなら最初からパワーバランスが崩れている関係なので上記のような対等であるべきという部分の問題が発生しなくなります。
 
読後感がかなり良い作品ですのでおススメです。