浅倉秋成 「俺ではない炎上」
浅倉さんの新刊が出ていたので買ってみました。
Twitterに殺人現場をアップされているのが拡散され、そのアカウントの投稿からある建設会社の男性のアカウントであると特定される。彼自身はアカウントを持っていないため何者かが陥れるために成りすましていると主張するもアカウントの内容の巧妙さと彼の日頃の行いが不評であったことから信じる者はおらず殺人犯として警察だけではなくYoutuberなどの一般人にも追い回されることとなる、というお話。
ネット上での炎上をテーマとした作品です。
ネットを通じて問題行為が拡散→当事者の個人情報も拡散という流れが上手くミステリーとして取り入れられていて質が高いです。犯人捜しは割と簡単ですが動機の方は現代社会の問題なども入ってくるので難易度が高くなっています。自分で推理しても良いですし、社会問題として推理なしで楽しむこともできるようになっているのも良い点だと思います。
また本作では「言い訳をする」もテーマになっているようでした。描写の量から見ると著者がもしかしたら書きたかったのはこちらなのかなと思いました。近年では辛いことなどからは逃げてもいい、という風潮が強くなっていますが本当に向き合わなくてはならないことから逃げる言い訳を探していないかという問題提起していると読み取れました。
一点だけ気に入らなかった部分として、追っている男性を犯人としたときに行動の辻褄が合わないという意見を「おじさんは変な行動しちゃう生き物だから」と先輩刑事が一蹴して取り合わない場面が何度もあったことです。警察に追跡させないための演出だとは思うのですがさすがに強引すぎるのでもう少し何とかならなかったのだろうかと思ってしまいました。
言い訳がテーマだったので自分が言い訳して逃げたケースを思い返していたのですが、今まで生きてきて言い訳をほとんど使ってないことに気付きました。自分でも驚いてしまったので考えてみたのですが、おそらく恵まれた家庭で育ってきたからそうなったのだと思います。両親の努力のおかげで不自由ない環境にずっと過ごせたことは幼少の時から自覚がありました。敢えて嫌な言い方をすると環境は常に不自由ないので、成果が出なかったり失敗したりしたときは自分が原因以外あり得ないことになります。勝手にそうやって自分で自分にプレッシャーをかけていただけで両親がそんなスパルタな意識を持っていたとは思えませんが、おかげさまで言い訳を探すことをしない性格になれたので感謝しかありません。素敵なこと言っていますが、実のところ言い訳探すよりも自分の非として認めてしまった方が手っ取り早く前に進むので楽だと認識しているということです。
ミステリー/社会問題どちらとして見ても質が高いので気になる方は手に取ってみてください。