花の本棚

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雫井脩介 クロコダイル・ティアーズ

雫井脩介 「クロコダイル・ティアーズ」
雫井さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 



 
陶磁器を扱う老舗を経営する夫婦が3世帯で暮らしていた。あるとき彼らの息子が息子の妻の元交際相手に殺害されてしまう。裁判の末犯人は有罪となったが、判決を聞いた直後からDVに悩んでいた息子の妻から依頼されて殺害したと言い始める。思い返すと息子の妻は葬式の席でウソ泣きしていたり、息子が亡くなってすぐに遺品を捨てようとしたりとまるで息子の死を待ち望んでいたかのような行動が多々あった。
孫の本当の父親は犯人の方なのではないか、など他にも疑念が尽きないため息子の妻が本当に事件の黒幕なのかを探るというお話。
 
疑心暗鬼をテーマにしたミステリー作品となります。
息子の妻が事件の黒幕なのかを調べようにも証拠が挙がらず、不信感だけがどんどん募っていくという心理描写がかなり上手いのが見所です。周囲の人たちは息子の妻の見た目に惑わされて無条件に信用してしまい自分だけが疑っている状況に不満を持っている、といった心情やそれに伴う行動はとてもリアルで読んでいて面白かったです。私はちゃんと言わない人は嫌いなので息子の妻には小さくない嫌悪感を持ちながら読んでいました。
ミステリーとしてみると、本作は思わせぶりや疑心暗鬼による謎が中心なので結構ぼんやりしています。なので推理する必要はなくミステリー部分は面白くするために添えてあるくらいの認識でよいと思います。
 
作中にて人間関係を築く中でその人の過去のことをどう扱うかという話が出てきました。本書の説明によると過去に何か嫌な出来事があったときにそのことを精算するか、あるいは重んじるかは個性が出るそうです。
自分はどっちかなと考えてみると両方を使い分けているように思えました。ある人と出会って交流するようになったとしたら、私と出会う前に何をしていたかは気にしません。会う前がどんな悪だったかは私自身が目にしていないので人から何を聞かされても特に問題にはしません。その代わりに会ってから起こした悪事は一切清算することはありません。反省して直すだろうとか久しぶりに会ったら変わっているかもなんて期待するだけ無駄ですし、直っている場面を今まで一度も見たことないので許せなくなったらそこで縁を切ってしまいます。
こういった考え方をしているので諍いがあったあとに水に流して仲直りできる人は本当に尊敬します。どういった発想で水に流しているのかをぜひ聞いてみたいです。
 
心理描写が好きな方でしたら楽しめる作品ですので、気になる方は読んでみてください。