花の本棚

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染井為人 鎮魂

染井為人 「鎮魂」
染井さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 


かつて世間を騒がせた半グレ集団のメンバーが殺害される事件が発生した。過去に多くの犯罪をしていた組織だったために犯人を称賛しもっと殺害することを望む声が多く集まっており捜査関係者は焦り始める。メンバーたちは過去の出来事への謝罪や今後まっとうに生きることを語った本を出版して解散する計画であったため、それを知っている身内に犯人がいるのではと互いに疑い始める。
一方で犯人の男性は弟がその半グレ集団に人違いで襲撃された後に自殺したことへの復讐を彼への鎮魂として遂行していた、というお話。
 
悪人をテーマにしたミステリー作品です。
これからはまっとうに生きたいと願い更生しようとする悪人たちとそれに対して「誰も更生を望んでないから全員殺せ」という正義感の強い人々との対立がリアルに描かれています。若い頃はアウトローの道を選ぶしかなかったが今は大切な人がいるという悪人たちの描写が非常に上手く、これらを描くことで世間の目やSNS上での犯罪者に対する見方について問題提起しようとしているのだろうと読み取れました。私も正義感が強い方なので悪人の更生拒否派の意見には共感するところもありますが、本書は悪人側の背景も描いてくれているので考えが及んでなかったところが知れて良かったかなと思います。
ミステリーとしてみると、犯人の正体の隠し方が上手い。自分で推理して探す必要は特にないと思うので話を面白くするためのものとして読むのが良いでしょう。
  
作中にて悪人は死んで当然だから誰も更生を望んでいない、という意見が何度か出てきました。犯罪者については別の作品で考えたことがあるので今回は悪人について思いついたことがあるので書いてみます。
悪人というと犯罪者をまず思い浮かべますが、実は悪人は環境によって定義があり、それに該当すると死を要求されるのではないかと思い至りました。例として私の今の会社の最初の部署を挙げてみます。私がこの部署で自殺を強要されたことを何度か書いていますが、その理由は私がその部署では悪人に該当したからという意見になりました。その部署での悪人の定義は「仕事が出来ない人」であり、私がそれに当てはまったからこそ「今後の成長とか誰も望んでないから自殺しろ」という暴論が当時のチームメンバーたちから出たのではないでしょうか。この流れは本書で描かれている悪人更生否定派の論調とほぼ一致するので、一つの説として有力だろうと考えています。こう考えると犯罪をしたわけでもないのに学校のクラスやSNS上で死を望まれる流れになるのも説明がつくのではないか、という考えになりました。だとすると不運にもその環境の悪人になってしまったらもうその場は諦めて離れるのが一番良いのでしょうね。
 
染井さんの作品は良いものが多いですが、こちらも素晴らしい作品ですのでぜひ読んでみてください。