花の本棚

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浅倉秋成 六人の嘘つきな大学生

浅倉秋成 「六人の嘘つきな大学生」
あらすじが気になったので読んでみました。

 

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急成長した企業の最終選考に6人の大学生が残っていた。最終選考はグループディスカッションで、一か月後の本番までに6人でチームとして議論する準備をするように言い渡される。全員内定を目指してチームを作ってきたが採用枠を1人にすると企業から連絡があり、グループディスカッションのテーマは「6人の中で誰が内定に相応しいか」と通達される。それでも全員がフェアに内定を競おうとするが、当日の会議室にはメンバー全員の悪事を暴露する封筒が何者かによって置かれていた。誰が何のために封筒を持ち込んだのか?内定を手にするのは誰か?というお話。
 
就職活動を題材としたミステリーです。
封筒を持ち込んだ犯人捜しによる推理面と、内定を取るための心理戦面と二つの要素があります。見所は心理描写が非常に上手い点で、本作のテーマとして「人の本質を見抜く」が置かれています。推理面においても物証よりもどういった心理で行動を起こしたのかを読み解いて推理するようになっています。最後まで読んでみると表面的な行動だけでは人の本質は分からないことが浮き彫りになり、私個人としても色々と考える部分がありました。
同時に現在の就職活動についても言及されています。企業と学生が嘘で塗り固めて合っている活動に意味があるのか?と問題提起してくれています。自分と真剣に向き合ういい機会だと私は考えていますが、今の就職活動の形態である必要はないと思っています。
 
本作にて表面的な行動ではその人の本質は見えないという描写が多く出てきます。就職活動への言及として数時間の選考でその人の本質が分かるわけがない、と主張していました。
人の本質は見なくていい、と私は思っています。理由は表面的な付き合いをしていて「この人を深く知りたい」となってから本質を見るのが正しい順番で、本質を見るのは自分にとって特別な人だけで十分だと考えているからです。「本質まで見ていないのに決めつけるな」は一般論では賛同されるでしょうけど、世の中のほとんどは表面上の付き合いで出来ている以上は本質まで見ないと分からない素晴らしさに価値はありません。
特に社会人の場合、好感を持ってもらえるように自分から動かず、相手に本質を見てもらうまで待っているのは受け身の姿勢なので良くないです。受け身で仕事してはダメ、と多くの人は新人時代に習いましたよね。そう考えると「この人の本質を知りたい」と相手に思わせるようにコミュニケーションが取れることは立派なスキルと言えるでしょう。
 
人の内面の描写が上手い作品ですのでおススメです。
初めて読む作家さんでしたので他の作品も読んでみようと思います。