花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

柚月裕子 慈雨

柚月裕子 「慈雨」
色んなところで評価が高かったので読んでみました。
 

f:id:flower_bookmark:20190907164410j:plain


主人公は定年退職した警察官。今まで関わった事件の被害者を思って遍路の巡礼を始めた。その途中で自分が16年前に担当した少女誘拐殺人事件と似た事件の捜査が行われていることを後輩の刑事から知らされる。16年前の事件の犯人は逮捕されていたが、それは冤罪で真の犯人がいることを彼は隠していた。今回の事件が起きたのは自分が真犯人を逃したからではと思い至った彼は巡礼しながらも事件に関わっていくというお話。
 
冤罪への償いをテーマとした警察小説です。
過去の事件を隠ぺいした警察汚点に決着をつけるという流れ。最近の似たことですと飯塚幸三が逮捕されない事件で警察への信頼がかなり下がっているというのが思い当たりますね。
この作品なのですが、致命的な違和感があって面白くないです。
違和感があるのは主人公の人間性。自身にも他人にも厳しい刑事でみんなから尊敬を集めていて、その姿勢を退職後も貫くというのがお話を通しての主人公の人間性なのですが、これだったら16年前の事件のときに何もしていないのと繋がらなくなってしまうのです。「遍路の巡礼を通して今まで逃げ回っていた自分と決着をつける」だったら話は分かるのですが、生涯厳格を通したという設定にしたいせいで話が変になっているのです。
 
それと遍路巡礼に関して多くページを使って丁寧に描いています。私は遍路巡礼について何も知らなかったのでためにはなったのですが、警察小説に出す内容ではないと思います。
 
柚月さんの作品を今までいくつか読んでいるのですが、それらの書評を振り返ってしてみると「面白い」と書いているものがなかった。もしかしたら新たな相性の悪い作家さんが見つかってしまったのかもしれません。
実は柚月さんの作品でもう一つ「盤上の向日葵」という作品を今後読もうと思っています。こちらを読んでみて相性が悪いかを決めます。