花の本棚

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久坂部羊 生かさず、殺さず

久坂部羊 「生かさず、殺さず」
以前から気になっていた久坂部さんの作品を買ってみました。

 

 
主人公は認知症専門病棟に在籍する医師。その病棟では認知症の患者が患うさまざまな病気を治療していた。通常の患者と違い、検査への協力を拒まれたり回復に向けた指示も伝わらなかったりと毎日苦戦する日々であった。
あるとき、同期だった元医師から認知症に関わる医師を主人公にした小説を書いているから協力してほしいと頼まれる。病棟を取材させることとなったが、それを境に病棟内で看護師が患者に暴力行為をしてけがをさせたという噂が立ち始め、同期が何か企んでいると疑い始めるというお話。
 
認知症をテーマにした医療系の作品です。出版社の紹介ではサスペンス系と書かれていましたが、描写量から見ると認知症の医療現場をメインに描いています。
社会問題の一つである高齢者医療の中でも、認知症医療の現場は群を抜いて過酷ということが本書ではリアルに描かれていました。当人は認知症のために自分が治療すべき症状を持っている事すらも忘れており、それに対しての家族の反応や医療従事者たちの本音といったものが鮮明に描かれているのが本作の見所となります。過酷な現場やそれにたいしての考えがあまりにリアルに描かれているため読む人によっては暗い気持ちになるかもしれません。
上記の認知症の部分がメインなのでサスペンスやミステリーの面はあまり描かれていません。作家志望の同期が何を企んでいるのか、本当に病棟に暴力行為はあったのかというミステリー的な部分があるのですがそれらは話を面白くするために添えてある程度だと思ってOKです。
 
作中にて認知症患者のことを徹底的に人間扱いせず接している看護師が登場しました。おそらくこれはそういった看護師が現場にいるということではなく、このように扱うことが認められたら現場はもっと効率的に動けるのにという一つの主張として描かれているのでしょう。
私としては患者を一切人間扱いしない病棟はニーズがあると思うのであっても良いと考えています。「迷惑かけずに早く死んでほしい」と願う家族が作中でも描かれていましたが、実際の現場ではそういった要望も少なからずあるのでしょう。そういった家庭向けに「扱いや治療を簡素にして入居者を次々と死なせていく」というニーズを拾う病棟を作っても良いと私は考えています。非常に残念な話ですが、現代では様々な個の価値観が認められる時代なので「面倒見られないから早く死んでほしい」という考え方も認めなくてはいけません。そもそも人間として普通に生きていたら早く死んで欲しいと家族に思われるような事態にならないでしょうから、何かしら当人がやらかしているだけでしょう。そういった扱いをされたくなかったら家族と円満な関係を作りましょうという牽制にもなるので家庭環境の問題を改善するきっかけになるかもしれません。
あまりにビジネスに寄った考え方なので「医は仁術」という古くからの考えに背く行いなるでしょう、しかしきれいごとばかり言っていられないのも現実です。
 
リアル過ぎて読むのがつらい部分もありましたが非常にためになる内容でしたので、気になる方はチェックしてみてください。