花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

奥田英朗 「罪の轍」

奥田英朗 「罪の轍」
コミュニティで評判になっていたので読んでみました。
 

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舞台は昭和38年。北海道での漁師生活が嫌になった男性が盗みを働きながら憧れの東京へやってきた。一方で強盗殺人事件の捜査をしていた刑事は北国訛りの男性が事件に関わっていそうという情報を得て行方を追う、というお話。
 
昭和中期を舞台にした刑事小説です。
読んでみた感想を一言でいうと相性が悪かった。私が刑事物嫌いということもあってハードカバー600ページ弱を読むのはかなりキツかった。ちゃんと概要を見ずに買ってしまったのでそこは反省しています。
内容としてみても刑事物が嫌いなことを加味しても良い物ではなかった。どういう結末になるか分からない、と言えば聞こえはいいですが進展がダラダラしてどっちに行くのかモヤモヤしっぱなしでした。登場人物の設定からそうなっているようでしたがテンポの悪さはかなり目につきます。結末も急に終わってしまった感じで結局何だったのか分からない部分が多くあり、これをミステリーと分類するのはどうかと思いました。
また舞台が中途半端に昔なので読みづらい。その舞台の当時を知らない人が読むと何を描いているのか想像しづらい場面が多い。作品そのものが「吉展ちゃん事件」という戦後最大の誘拐事件をモチーフにしているので仕方ない面ではあります。
 
帯に「すべてのジャンルを超越する感動がここにある!」と書いてありましたが、本書を読んで感動は一度もしませんでした。ですが警察小説が大好きという人には好まれるでしょう。
 
本書の内容から外れますが、いい機会なので「刑事物」というジャンルが嫌いな理由を考えました。
私は何年か前くらいから刑事物が嫌いになりました。最近だと堂場瞬一さんとかが人気ですが、薦められてもまったく読む気が起きません。警察嫌いなわけではないのになぜだろう、と思いいろいろ考えてみました。
最初に至ったのは刑事物は捜査にフォーカスが当たっていること。事件や犯人の背景にも触れはしますが、一番多く書かれるのは刑事たちがどんな捜査をいかに熱く行っているかです。そうなると警察の公務内容は時代や描き方によって差異がそこまで出ないので誰が書いても話の流れがだいたい同じになります。違いを出すために捜査の仕方が特殊で斬新なチームの話なら私も楽しく読めているのでこの要因はおそらく正しい。
次に嫌な点は刑事たちの熱さや有能さを描写するために無駄な記述が多いこと。私が刑事物を読んでいて最もストレスなのはこれです。
容疑者と駆け引きして自白させる、捜査で街を歩き回る、など刑事物番組だと鉄板なシーンですが文字で読むと私にはページ稼ぎにしか見えない。一番不要だと思っているのは捜査会議のシーン。読者にすでに伝わっている情報を読み上げるだけの場面に何の意味があるのかは何度考えても分かりませんでした。あげく指揮官が捜査官を激励するための演説まで長々と書いてあったら丸ごと読み飛ばしています。
これらが刑事物の醍醐味なのは知っていますが、この醍醐味が楽しめなくなっていると分かったので刑事物はもう止めた方がいいだろうと思いました。
 
「鬼の〇〇」「落としのXX」とか付いてる通り名がダサい、など他にも細かい部分はありますが大きいのは上記2点かなと思います。自分と向き合う機会になったので私としては良かった。